週間国際経済2015(5) 04/27~05/03

04/28
・日米、世界で安保協力 指針18年ぶり改定 <1> <2>
 日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2、ニューヨーク27日)「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」改定に合意 日本への攻撃がなくとも米軍とともに太平洋を越えた地域で平時から有事まで切れ目なく対処する
20150427_0120150427_02
・日本国債1段階格下げ フィッチ「消費増税先送りで」
 ⇒ポイント解説あります
・「日本は崖っぷち」経済同友会の新代表幹事、財政・人口減問題などなど提言強化
 今年1月には「消費税を段階的に17%まで引き上げるべき」提言
・ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議 経済自由化を再加速
 今年末発足のASEAN経済共同体(AEC)「単一生産基地」「単一市場」創設を目指す
 2025年目標の新工程表作成 中小企業への支援拡大が柱

04/29
・日米首脳会談(ワシントン28日)日米「不動の同盟国」 <3>
 TPP妥結へ協力 中国の海洋進出けん制
20150427_03
・ASEAN首脳会議声明 中国の南シナ海進出は「信頼損なう」と批判
 フィリピンが強く主張 「ASEANは中国寄り」視線意識し従来の「懸念」から踏み出す
・Apple、1-3月期売上27%増 中国が70%増で全体のほぼ3割

04/30
・安倍首相米議会演説 米国との和解強調「過去克服」 <4>
 アジア「侵略」「おわび」使わず「痛切な反省」 米の「歴史修正主義」懸念払拭
 安保法制成立「夏までに」異例の国際公約
 ⇒ポイント解説あります
20150427_04
・米1-3月年率0.2%成長に減速 厳冬、ドル高響き輸出・投資に冷水 <5>
 前期2.2%成長からブレーキ 市場予測(1%程度)大きく下回る 利上げ遅れの見方固まる
 日経平均、一時400円超安 米景気の減速を警戒
20150427_05

05/01
・日銀、金融政策決定会合で物価2%達成時期を2016年前半頃に後ずれ
 従来は2015年度を中心とする時期 個人消費の回復、不透明
 3月消費者物価2.2%上昇 増税分除き0.2%で日銀目標と開き
 3月消費支出は10.6%減 昨年同月駆け込み消費の反動で下げ幅過去最大

05/02
・原油反発60ドル迫る 約4ヶ月ぶり底値から4割上昇
 シェール生産頭打ち 中国景気下支え期待 倍ドル高一服感などが影響

05/03
・アジア開発銀行(ADB)年次総会 迫られる改革 AIIBを意識
 中尾総裁が民間資金活用、将来の増資、AIIBとの協調融資に言及

※PDFでもご覧いただけます
ico_pdf


ポイント解説(5)

日本国債の格付けが中国より下?

 4月7日格付け会社フィッチ・レーティングスが日本国債の格付けをひとつ下げ、上から6番目の「シングルA」にしたと発表しました。中国(Aプラス)よりひとつ、韓国(ダブルAマイナス)よりふたつ格下にランクされたということです。

 格付け会社というのは、債券の信用度(元利金支払いの確実さ)のランク付けを生業としてる民間会社です。このフィッチとムーディーズそしてスタンダード&プアーズが世界3大格付け会社だとされています。格付け基準は明らかにされていませんし、リーマンショックのときには最高ランクの企業が倒産しています。しかしアメリカ証券取引委員会はこれら格付け会社以外の格付けを認めていません。したがってある程度マーケットに影響を与えますし、投資家の多数がリスクと思えばリスクとなるのがマーケットです。ちなみにムーディズは昨年12月にやはり日本国債を1段階格下げしています。しかし日本国内の反応はほとんど「無視」です。新聞各紙の扱いは見逃すほど小さいですし、麻生財務大臣は「いちいちコメントしない」で終わり(昨年ムーディズの格下げの時には報道ステーションの古館さんが「たかが民間会社の」と切り捨ててたのが印象的でした)。でもギリシャ財政危機から南欧国債の格付けが下がったときは日本でも大騒ぎをして実際ユーロ危機にまで発展したのですが。

 格付け会社の判断に振り回されないほうがいい、というのは賛成です。ただ日本の財政赤字への危機感に内外温度差があることは事実です。すぐにどうなるものではない、という態度も理解できます。しかし事情が変わってきました。そう、先週のポイント解説でみたバーゼル委員会の規制見直しとの関係です。来年から国債保有はリスクとみなされる見通しで、それは格付けが低いほど資産の積み増しが必要になる可能性があります。銀行の保有資産における国債の比率はヨーロッパで平均4%であるのに対して日本では約13%に達します。これがリスク資産と看なされば邦銀は国債を手放すか融資を圧縮しなくてはならなくなります。

 偶然ですが同じ日に経済同友会の新しい代表幹事に就任した小林さんが記者会見をして「日本は崖っぷち」と指摘しました。同友会は日本経団連、日本商工会議所と並ぶ「経済三団体」のひとつです。危機感の対象は財政赤字とエネルギー、人口減問題でした。今の日本ではとにかく消費税と移民労働者に対するアレルギーが強い。小林会長は「不都合な事実や問題から目をそらすことはできない」と強調しました。たしかに目をそらしていますよね、政治とメディア。

集団的自衛権とアベノミクス

 4月29日のアメリカ議会上下院合同会議での安倍首相の演説に注目が集まりました。日米関係を高らかに謳いあげることも、「侵略」「おわび」を使わなかったことも驚くほどのことではありません。たださすがに驚いたのは、安保法制成立について「この夏までに必ず実現する」と言い切ったことです。新聞の扱いは大きくはありませんでした。日経も「異例の国際公約」としながらも12行の小さな記事でした。でもこれは「ちょっと待って、ちょっと待って」なのです。

 昨年7月1日、安倍内閣は集団的自衛権の行使容認を閣議決定しました。憲法解釈を閣議決定で変更できるのか、という問題も大切な論点です。また<2>にあるように、現行の安保法制(自衛隊法、周辺事態法など)は憲法第9条にもとづいて、つまり個別自衛権の範囲にあります。これらの法律改定は二度の国会で一度も審議されていません。そもそも法案は一本も提出されていません。日本の議会で何も話されていないことをアメリカの議会に約束したことになります。国会に対して傲慢だとか、アメリカに対して卑屈だとかという論評もありますが、ぼくはどうも慌てている、焦っているように思えてなりません。 集団的自衛権容認は、過去三度の国政選挙で一度も争点になっていません。問われたのは経済政策でした。そう、アベノミクスと呼ばれるものの評価ですね。よく知られているようにアベノミクスの第一の矢は異次元の量的緩和、第二の矢は積極的財政出動です。どちらも(とくに量的緩和は)「禁じ手」とされるほどの刺激的な景気対策です。つまり今、日本経済はカンフル剤を大量に投与されている状態です。ぼくの診断では「日本病」とは財政赤字と少子高齢化であって、デフレはその症状です。対処療法を否定するわけではありませんが根本的治療ではないと考えています。

 では大量のカンフル剤投与はデフレ克服を達成していると言えるのでしょうか。アベノミクスでは日銀の量的緩和で物価を上昇させて,物価が上がれば生産と消費を刺激するという「期待(予想)インフレ・ターゲット」理論に基づいています。この理論自体に異論が多いのですが、政策ですから結果的に期待インフレが実現できているかどうかで評価されるべきですね。その政策目標は「2015年度を中心とする期間に消費者物価指数を2%上昇させる」というものでした。

 皮肉なことに安倍首相の演説の直後、日銀はこの目標時期を「2016年度前半頃」に後ずれさせました(5月1日付)。消費の回復が鈍く、3月の消費者物価は消費税分を除くと0.2%上昇にすぎません。今年1月と2月も実質消費は前年を下回っています。大企業では賃金アップが見られますが老後が心配で賃上げが消費にまわりません。ましてや大多数の勤労者は実質賃金(賃上げ率マイナス物価上昇率)が目減りしている状態です。アベノミクス第三の矢とされる「成長戦略」の目玉とされたTPPも、とても日本経済成長に大きく寄与するようには思えません。円安・株高はたしかに一部企業に恩恵を与えました。しかしアメリカは景気回復にブレーキがかかるとドル高への不満が高まります(4月30日付)。実体経済と離れた株価高騰には危うさが出てきました。原油安の神風も吹き止みそうです(5月2日付)。

 アベノミクスへの期待からもたらされる高い支持率を背景に安倍内閣は集団的自衛権行使容認→日米防衛協力ガイドライン改定→新安保法制成立へと突き進んでいます。ぼくが感じる安倍首相の「焦り」とは、アベノミクスが期待倒れになる前に「改憲」への道筋をつけてしまおうという焦りではないかと感じるのです。そうだとしたら、焦るべきはアベノミクスの修正あるいは見直しではないでしょうか。少なくともこの夏の国会を安保法制改定の強行可決連発に消耗させてしまってはなりません。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. 田中みのり(立命館大学) より:

    TPPに関して、再び考えたことがあり、今回の記事にもTPP関連っぽい記事がありましたので、今回もTPPについてコメントしようと思います。日本の米と言うのは海外で非常に人気があるようで、今生き残っている米農家はある程度は潤っているようです。ですので、もし米の関税を世界に対してゼロにしたら、いわゆる米の自由貿易をしたら、より日本の米が海外市場で安くなるので、世界に売れるのではないでしょうか?日本国内に関しても、もし米の関税がゼロになり海外米が安くで入ってきたとしても、めちゃめちゃ売れるとは思いません。やっぱり、日本米の方がおいしいので、日本米を購入すると思います。そう考えるようになると、なぜ日本が米の関税を守りたいのか、わからなくなりました。米の関税問題を解決できれば、きっと車に関しても上手くいくだろうし、どうしてTPP交渉が行き詰るのだろうか、と考えるようになりました。

    • 金俊行 より:

      高い関税で保護するよりも自由化して競争力を強めればいい、というのは日本国内でも有力な意見となっています。その成功例としてよくあげられるのがサクランボとミカンです。最近では和牛の海外進出がニュースでよく取り上げられています。ですから田中さんの指摘はとても重要です。皆さんもよく考えてください。さて「聖域5品目」はどうでしょう。国内産業に重大な影響があると考えられたから絶対に保護すると公約したのですね。自由化して競争力が向上するとは国民を説得できなかったからです。「日本のコメ(コメはカタカナで表記されます)のほうがおいしいので」国内市場では競争力がある、という実感も当然です。しかし日本のコメ市場が開放されたらTPPメンバー国も日本人の好みに合うコメ(ジャポニカ米)を生産するかもしれません。TPP反対派はこのことを恐れています。「アーカンソー州ではジャポニカ米に切り替えられる。ベトナムではすでにコシヒカリを欧州に輸出している」(日本農業新聞)というふうに。味覚の鋭い人はともかく、これら外国産ジャポニカ米が国産米の10分の1の値段で買えるのです。外資系外食産業で大々的に宣伝するでしょう。同時に小麦が自由化されます。一方、日本のコメ農家は海外どころか国内でも流通が自由化されていません。これと引き替えに自動車関税が撤廃されたとしても、日本の乗用車メーカーは国内生産を拡大するでしょうか。自動車だからといって輸出ばかりに目が行きますが、現在の海外工場から日本に輸出しても関税ゼロなんですから。TPPに賛成するにしても反対するにしてもしっかりとした戦略と国民的合意が必要ですね。あとTPPには貿易以外の分野で、日本経済に深刻な影響を与えるものが多く含まれています。いずれ問題になりますから、そのときまたいっしょに考えましょう。

  2. 佐野友紀(立命館大学) より:

    他の授業でAIIBについて学んでいるので、5月3日のAIIBについてふれている記事について考えました。

    世界的な主な融資をする銀行は、世界銀行・国際通貨基金・アジア開発銀行である。
    中国が経済大国となり、アジアのインフラという重要市場をトップで活動するためにAIIBを設立した。
    資本規模は1,000億ドルで、57ヵ国が参加を表明している。

    しかし、私の疑問は、1000億ドルという巨額のお金を今の中国の経済の状態でどのように、資金を得て、また拠出し続けられるのかということです。

    • 金俊行 より:

      佐野友紀さん(立命館大学)へ:

       国際収支(経常収支と資本収支)の帳尻が外貨準備です。中国の外貨準備額は昨年末で約3兆8400億ドルという莫大な規模、もちろん世界最大で第二位の日本(約1兆2000億ドル)の3倍になります。週間国際経済2015(7)で日本の経常収支黒字が7.8兆円(約650億ドル)に増えたという記事を紹介しましたが、中国は同年2138億ドルの黒字です。この資金を国内投資に向けることがなかなか難しいのです。中国経済は国内の過剰投資が問題で、これを整理するのにはかなり時間がかかります。また外貨準備は当然外貨(大半はドル)ですからこれを国内投資に向けるということは外貨売り人民元買いで人民元高となり輸出に影響が出ます。そこで同じドル資産でリスクの小さい米国国債を買っていますが中国の米国債保有高は今年2月で1兆2200億ドルです(この時点で日本が僅かですが中国を抜いて米国債保有高1位になりました)。まだ2.5兆ドル残ります。つまりアジア投資銀行はとても魅力的な資金運用先だといえます。つまり中国にとってAIIBは外貨準備運用の多様化をもたらすというメリットがあります。一方で日本は外貨準備1.25兆ドルで米国債保有高は1.22兆ドル、全面的な依存関係です。これは日本の過剰貯蓄がアメリカの貯蓄不足を埋めている関係でもあります。

       AIIBの設立時資本金は500億ドルです。佐野さんの指摘している1000億ドルというのは将来の目標です。そしてそれには中国の戦略が絡んでいます。AIIBは出資金に応じて運営に関する投票権が与えられますが、欧州勢の割り当ては全体の25%で、欧州勢は発言権を高めるために30%に引き上げろと要求しています。そこで中国は資本金を1000億ドルに増やした場合、あなたがた(欧州勢)は「出せますか」と揺さぶりをかけているという声もあります。たしかに国際機関でひとつの国の発言権が突出していることは感心できません。しかし国際通貨基金(IMF)ではアメリカに拒否権が与えられているのです。大切なことは「アジアの貯蓄をアジアへの投資」に向けるシステムをどう築いていくかということです。AIIBはひとつの可能性です。中国の利害に左右されないように、やはり日本は設立メンバーとして参加し、副総裁および理事ポストを得て、相応の出資金拠出によって発言権を持つべきだったのではないでしょうか。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

以下の計算式に適切な数字を入力後、コメントを送信してください *