週間国際経済2015(4) 04/19~04/26

04/20
・中国、預金準備率1%下げ、追加緩和で景気下支え <1>
 異例の下げ幅(一般的には0.5%刻み) 景気減速に危機感
 預金準備率:中央銀行が民間銀行から強制的に預かる資金の比率、下げると通貨供給量増加
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・中国の海外旅行支出、昨年28%増「爆買い」で19兆円 4年連続世界最高
 世界の国際観光市場の1割以上を占める(国連、世界観光機関調べ)

04/21
・日米TPP協議持ち越し コメ・自動車で合意に至らず <2> <3>
 牛肉・豚肉は日本が譲歩 コメの日本側輸入量、自動車部品の米側関税撤廃期限で難航
 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定:Trans-Pacific strategic economic  Partnership agreement)
 ⇒ポイント解説あります
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・ギリシャ資金繰り懸念 3年物国債利回り、一時29%に 独国債はマイナスに
 投資家が安全資産に資金移動して金利低下 投資バブル招く恐れ

04/22
・日経平均再び2万円台 日銀追加緩和に期待してヘッジファンドなどが買い
・日本2014年度貿易収支9兆円赤字(4年連続)13年に次ぐ二番目の赤字規模
 3月は2年9ヶ月ぶり黒字(2293億円)原油安で輸入が前年同期比14.5%減

4/23
・韓国GDP(1-3月)0.8%増 輸出や消費が不振、伸び悩み続く <4>
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04/24
・海外マネー、日本国債へ 欧州金利低下で妙味 将来の変動リスクも <5>
 2014年国債先物市場で取引の52%が海外勢 現物債市場でも15兆円の買い越し
 直近でも1-3月で3.3兆円の買い越し 逃げ足の速い海外勢参加で金利上昇リスク高まる
 ⇒ポイント解説あります
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・バンドン首脳会議(1955年アジア・アフリカ会議60周年)中国が存在感 <6>
 採択された声明で「南南協力」強化確認 習近平氏、AIIB・シルクロード構想で支援強化
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・日中首脳、バンドン会議(ジャカルタ)で5ヶ月ぶりに握手
 首脳会談に向けて関係改善に意欲

04/25
・米「村山談話の継承を」首相訪問前に高官 日韓関係を懸念
 ローズ大統領副補佐官は「核なき世界」演説を書いたオバマ大統領側近

04/26
・バーゼル委、銀行の国債保有規制の見通し 金利変動に備え来年にも
 バーゼル銀行監督委員会は主要国銀行が加盟する 保有資産のリスク規制を監督
 国債価格下落(金利上昇)に備え自己資本の積み増しを検討
 ⇒ポイント解説あります

※PDFでもご覧いただけます
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ポイント解説(4)

やっぱり日本国債市場が心配なんです

 先週のポイント解説(3)では国債価格と長期金利の関係を説明しました。政府財政に対する信認が低下すると(=財政赤字が増えると)国債価格が下落し(=国債利回りが上昇し)→長期金利が上がる。でも日本が対GDP比で最悪の財政赤字を抱えながら国債価格が安定しているのは莫大な民間貯蓄がこれを買い支えているから。つまり日本国債市場は国内需給で均衡しているという話でした。

 4月24日付の記事は、その日本国債市場で海外勢の買いが急増しているという内容です。彼らの動機は欧州金利の低下で相対的に日本国債利回りが魅力的だからだといいます。すると例えばギリシャとEUで何らかの合意がなされた場合、あるいは逆に合意が難航した場合、欧州金利はその影響を受けますし、その結果、彼らは日本国債を売り飛ばす可能性がある、またマイナス金利でもユーロ建て国債を買う人たちは満期償還までに売らないと損をします。「逃げ足の速い」ゆえんですね。すると海外勢が売り越した日本国債はいったい誰が買い支えるのでしょうか。国内金融機関が買ってくれないと国債価格は下落します。ちゃんと買ってくれるのでしょうか。

 4月26日の記事は、主要国銀行を監視するバーゼル委員会が銀行の国債保有を規制する見通しだという内容です。スイスのバーゼルには国際決済銀行(BIS)がありますが、1988年に銀行の自己資本比率規制(銀行が経営破綻をしないようにリスクに対して一定比率の自己資本を保有する)に合意しました。これを「BIS規制」と呼びます。以降このBISを事務局としたバーゼル銀行監督委員会がその規制内容の見直しを2004年と2010年に策定しています。見直しを繰り返すのは、規制しても銀行破綻と金融危機が発生するからです(そもそもぼくは自己資本比率規制では銀行経営の健全性を担保できるとは思いません。規制するべきは金融派生商品と国際的資本移動だと考えています)。

 さて来年決定が見通されている規制の主旨は、国債もまたリスク資産とみなすことです。ギリシャ財政危機に代表されるように国債価格(すなわち国債利回り)の変動が激しくなったからです。すると新ルールでは金利上昇時(国債価格下落したとき)には国債を売るか自己資本を積み増さないといけません。ましてや格付けの低い(国債格付けは次週のニュースに出てきます)国債を保有するならば普段からより多くの自己資本を備えるか、融資を減らさないといけません。バーゼル委員会は住宅ローンもリスク評価の対象にすることを検討しています。

 心配ですね。消費税率引き上げを延期して財政赤字(国債発行)を日銀に支えてもらっていますが、海外勢が買い越した日本国債を売り始めても国内金融機関はこれを買うインセンティブが低下します。国債が売れ残れば長期金利は上昇し、企業投資の資金調達コストは増えて、ローン関連融資が渋くなれば住宅市場は冷え込むでしょう。

 日銀の黒田総裁はこの問題に対する懸念を2月の経済財政諮問会議で安倍総裁に直言しています。このことがわかったのは4月の14日です。黒田発言は議事要旨から削除された、そうオフレコ扱いにされたからです。こうした情報統制が、もしかしたら一番心配すべきことなのかもしれませんね。

TPPが大詰めですが、このまま詰めてもいいのでしょうか

 まず基本的なことから。TPPはパートナーシップ(連携と訳さています)協定ですから、単なる自由貿易協定(FTA)とは範囲が違います。知的財産や投資、競争政策、金融サービス、紛争解決、政府調達など全部で21分野におよびます。外国貿易における関税引き下げ交渉にとどまらない国民経済全体に大きな影響があります。どうも報道では貿易面ばかりに焦点が当たっている印象ですね。次に交渉の特徴ですが、第一に日本は最も遅れて交渉に参加した、これは不利ですね。そして日米交渉が全体の進展のカギとなっている。その日米交渉ですが、アメリカ側はほとんどの分野で交渉進展を要求する圧力を背景に、日本側は逆に交渉に反対する勢力を抱えて臨んでいます。そして日本ではこれら勢力を押さえ込んだり弱体化させる政策が「改革」と呼ばれています。

 例えば、農産物自由化に反対する最大勢力はJA(農協)ですが解体されました。自由化に対応して競争力をつけるための改革だとされています。たしかに改革は必要ですが、国際金融市場で注目されているのはJAが保有する莫大な資金です。日本には自由化されていない(外国との競争から保護されている)100兆円単位規模の資金がいくつかありました。まず郵貯(簡保)、これは民営化されました。次に公的年金、その運用で株式投資の上限が大きく引き上げられ日本株価を支えていますね。この運用を委託されている金融機関の大半は外資系です。最後に残ったのが、そうJAだということです。医療や保険分野でも同様の改革が進んでいくだろうと見られています。

 4月21日付記事の「大詰め」とは、貿易関税交渉についてです。日本が要求していることは自動車輸出の自由化です。日本が守ろうとしている分野が「聖域」5分野、コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物で、なぜ聖域かというと2012年末の衆議院選挙における安倍自民党の「公約」のなかでそう呼ばれたからです。大詰めで自動車とコメ、牛・豚肉が残っているということは他の聖域3分野はすでに日本側の大幅譲歩で決着しているからです。これって公約違反にならないんですかね。今まで日本の小麦は252%、バターは360%,砂糖は328%の関税で守られてきました。輸入製品は国内市場で2倍から3倍の値段になるということです。TPPにはアメリカだけではなくてカナダもオーストラリアも参加しています。高い関税率でで麦や乳製品分野が保護されなければまったく勝ち目はありません。多くの日本の酪農農家は次々と廃業しています。倒産ではありません、まだやっていけたはずなのに将来に見込みがなくなって新規投資を断念しているのです。沖縄農家の70%以上はサトウキビ生産者です。台風に強いというのがその理由です。ですから輸入製品に押しやられても他の作物に換えることは容易ではありません。

 コメには800%近い関税がかけられています。日本は5万トンだけアメリカから輸入すると、いやアメリカは20万トンにしなさいと、大詰めでは日本はアメリカ以外を含めて10万トン、いやアメリカだけで17万トン、交渉するごとに日本の譲歩が大きくなってきました。でも自動車が輸出できればとわずかな希望、とはいっても現行2.5%の関税を10年かけてなくしましょうと、でも部品はもっと時間がかかりますよとアメリカ。どうもフェアな交渉には感じられません。どうして日本はこんなに譲るんでしょうか。アジアのTPP参加国、ベトナムやマレーシアなどでは政府調達や国営企業改革についてアメリカに要求されて「もう辞めようかな」と言い出しています。日本は辞められないのでしょうか。

 TPPはもともと2006年にシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ4カ国で始まりました。2010年になってアメリカとオーストラリアなどが参加して9カ国になりました。当時、日本ではほとんど話題にならなかった。日本の通商政策で焦点となっていたのは日中韓FTAでしたから。突然、日本が参加を検討すると言い出しました。当時の菅直人首相が「平成の開国」とかいって。もちろん(と言っていいのか)反対され相手にされない空気でした。すると2012年「尖閣国有化」で日中関係が悪化すると「中国と対抗するためにはアメリカとの関係をより強めないと」なんて言い出したのです。論理がわかりません。そもそも中国は日本にとって最大の貿易相手国ですし。こうして通商問題は安全保障問題と絡まって(絡めて)しまったのです。これは損です。通商問題と安保問題は別次元のテーマです。例えばカナダとメキシコはアメリカとNAFTA(北米自由貿易協定)によってほとんど単一市場ですが、アメリカの対イラク戦争には最後まで反対していました。例えばオーストラリアはその対イラク戦争に一番たくさん軍隊を派遣しながらアメリカとFTA交渉を始めましたが、全面的にアメリカに譲歩する結果となりました。通商と安保を絡めると、安保で強い側が通商でも強くなるのは当然ですから。

 安倍政権にとってTPPはアベノミクス「第三の矢」成長戦略の目玉でしたし「聖域」は公約でした。しかし安倍首相にとってもっと大きな関心は「集団的自衛権行使容認」とそれによる日米防衛協力の強化です。つまり通商と安保を絡めるどころか、安保優先の通商政策となったと。だからTPP交渉は詰めれば詰めるほど日本側の譲歩が大きくなる、ぼくにはそう見えます。このまま詰めてもいいのでしょうか。TPPも日米防衛協力も。

 貿易といえども、安く仕入れて高く売れるマーケットを近くになるべく大きな規模で確保することはビジネスの基本です。ビジネスが上手くいっていれば無用の争いごとも避けられるでしょう。もし規定方針通り日中韓FTA構想が進展しこれが東南アジアに拡大していたら、アメリカとの通商交渉はまた違ったものになっていたでしょう。安全保障コストも節約できたと思います。それで誰が損をするというのでしょうか。

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