週間国際経済2015(3) 04/12~04/18

04/13
・米キューバ首脳会談(パナマ11日)59年ぶり、対立の歴史転換 <1>
 国交正常化へ弾み 「テロ支援」解除、数日後に決断
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04/15
・米大頭領が対キューバ「テロ支援国」解除承認、議会に通告(14日)
・米大統領選(2016年)ヒラリー氏出馬表明 中間層の「擁護者に」
 「普通の米国人は擁護者を必要としている。私はその擁護者になりたい」と強調
・日中韓観光大臣会合(12日東京)共同声明で2020年に相互観光3000万人に
 会合は4年ぶり(第7回)3カ国相互訪問数は2014年2047万人

04/14
・韓国 政治とカネ、朴政権を直撃 12年大統領選に不正資金疑惑 <2>
 野党、首相らの辞任要求 清廉イメージに打撃 経済など政策停滞も
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04/15
・アジア投資銀行、57カ国で創設
 日経新聞「アジア投資銀の衝撃」幻の日本人総裁、G7の参加は絶対ない
 中国側は人材不安で日本を優遇して参加要望も日本は拒否 そこで中国は欧州に軸足
・シェールオイル減産へ 原油安で採算悪化 米エネルギー情報局5月見通し

04/16
・原油価格底入れ観測 シェール減産の見方で一時1バレル55ドル
・中国、7.0%成長に減速(1-3月)6年ぶり低成長 不動産不振、鮮明に
 安定成長「新常態(ニューノーマル)」へ道険し 景気下支え不可避 <3> <4>
・欧州中銀(ECB)量的緩和を継続 政策金利も据え置き デフレ懸念なお
・欧州委、グーグルに警告 ネット検索が独占禁止法違反の疑い <5>
・OECD経済協力開発機構が対日審査報告書公表 消費税「15%に引き上げるべき」
 日本の債務残高(財政赤字)は「未知の領域」長期金利上昇リスクを指摘 <6>
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04/17
・EU対ギリシャ支援、合意に暗雲 国債格付け引き下げでデフォルト懸念再燃
 支援条件の構造改革、財政緊縮に後ろ向きのギリシャ 日米株価は大幅下げ
・米国債保有額で中国が6年ぶりに首位転落 代わって日本が首位に <7>
 景気減速でマネー流出映す 外貨準備運用多様化も影響→アジアインフラ投資銀行
 日本は金融緩和で相対的に利回りが高い米国債への投資が続く見通し
・日米韓外務次官級協議(ワシントン16日)米「日韓関係改善に期待」
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04/18
・上海株時価総額が日本株超す 過去1年間で約2倍に
・日米TPP詰めの交渉 牛・豚肉で大枠合意 コメ・車あすから閣僚協議
・G20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)共同声明採択(ワシントン17日)
 IMF改革で米に批准促す 新興国発言権に配慮 中国、人民元国際化へ攻勢

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ポイント解説(3)

アジア投資銀行(AIIB)、国際通貨基金(IMF)、米国債保有高、上海株時価総額
 話題のAIIBが15日、創設メンバーが57カ国となることが決まりました。日経新聞は4月14日付から「アジア投資銀の衝撃」という記事を連載しています。それによると中国側は「なんとしても日本を引き込みたかった」というのです。そのために筆頭格の副総裁および単独の理事ポストという「優先待遇」を打診していました。その理由は「人材」です。中国も自分たちだけで国際金融機関を設立運営できるとは思っていません。人材面だけでも日本の助けが欲しかったというのです。これに対して日本側はアメリカの顔色ばかりを気にしている。そこで業を煮やした中国はイギリスに接近した。イギリスなら国際金融業務の人材は豊富です。こうして「英国ショック」に世界は揺れ、アメリカも歩み寄りはじめたと(顧問にはアメリカ人が就任する予定です)。東南アジア諸国からも中国の抑え役として日本の参加を望む声が上がっていたといいます。日本の不参加は、どのような独自の判断基準にもとづいていたのでしょうか。
 17日にはワシントンでG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)が共同声明を採択しました。ここで焦点となったのがIMF改革です。改革のひとつは中国の出資比率を引き上げること。もうひとつは準備資産に人民元を採用することでした。IMFでは出資比率に応じて決議権が与えられアメリカだけに拒否権があります。準備資産(SDR、これはまた別の機会に説明します)はドル42%、ユーロ37%、ポンド、円約10%の構成比率です。この基準見直しは5年に一度、今年はその年でした。G20は中国を初めとした新興国の出資比率(発言権)を高めることを求める声明をこれまで何度も採択してきました。ただアメリカの議会がこれをなかなか批准しません。そこで今回の声明ではアメリカの批准を「強く促す」と明記しました。中国の国際金融面での存在感は急速に大きくなっている印象です。
 これらの動きを前後してふたつのニュースに注目しています。ひとつは上海株時価総額が日本株を上回った(04/18)。これまでも深圳株を合わせれば日本を上回っていましたし香港株を加えれば遙かに上回っていましたが、上海市場単体では初めてです。日本株の高騰が話題になっていますが中国株の上昇率はそれ以上のテンポです。もうひとつのニュースは米国債保有額で中国が6年ぶりに日本に首位の座を明け渡しました(04/17 図表<7>)。海外ドル保有の主役は中国と日本の外貨準備(国際収支の帳尻)で、これらの大半は米国債で運用されています。つまりアメリカの赤字をアジアの貯蓄が埋めている(ファイナンスしている)のです。見方を変えれば、アメリカの量的緩和を支えていると言うこともできます。ここで中国の「ドル離れ」、つまり外貨準備の運用の多様化を模索していることから米国債保有高が6ヶ月連続で減少しているという分析です。その多様化のなかの大きな柱がアジアインフラ投資銀行なのです。一方、日本の米国債保有高は増え続けています。世界最大の財政赤字国であるアメリカの国債への依存が続くことは、日本の貯蓄の運用先としていかがなものでしょうか。

日本、消費税15%に!?OECD対日審査報告書
 経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development)は「先進国クラブ」のようなもので加盟国経済を定期的に審査報告しています。その事務総長が来日して日本の債務残高を「未知の領域」と警告する報告書を公表しました。日本政府への信認が低下し、長期金利が上昇するリスクを懸念しています。どうして財政赤字が大きくなると長期金利が上昇し、それをなぜ世界が心配するのでしょうか。
 図<6>に見るように日本の債務残高の対GDP比は財政危機に陥ったイタリアを大きく上回ってダントツの最悪水準です。ざっくり見て日本の累積財政赤字額は1000兆円を超え、GDPは500兆円足らずです。会社なら年間売り上げの2倍の借金があるとイメージしてください。そこで国債価格と長期金利の関係です。政府の借金を埋める国債も市場で取引されます。政府財政に対する信用が低くなれば国債の市場価格は下がります。額面(償還価格)100円の国債を98円で買ったときと95円で買ったときでは安く買ったときのほうが儲かる、つまり利回りが高くなります。国債価格が下落する(国債利回りが高くなる)とそれに比例して金利が上昇します。というのも国債は5年ものとか10年ものといった償還期間で売られますから、金融機関はこれよりリスクの高い融資には国債利回り以上の金利を付けます。ほぼ安全な国債と企業融資とは当然リスクが違うからです。
 このように政府財政に対する信認が低下すると長期金利上昇のリスクが出てきます。でも日本の財政赤字は莫大なのに金利はゼロに近い水準です。なぜでしょう。ひとつはアベノミクスの異次元緩和によって日銀が大量の国債を買い支えているからです。当然これは限界のあることですし、やればやるほど副作用も大きくなります。次に日本の民間貯蓄がこれを支えています。ざっくり1500兆円も民間は貯め込んでいます。この定期預金や生命保険料などが国債を買っているからです。なぜこんなに貯め込んでいるのでしょう。政府の財政赤字が心配で老後の蓄えが心配だからです。変な話ですね。そしてこの貯蓄は日本政府の赤字のみならず、先に見たようにアメリカの赤字も埋めているのです。なんかやっぱり変な話ですね。
 しかし高齢化が進むとこれら貯蓄は取り崩され、一方で財政赤字が増え続けると国内で国債を消化できなくなるでしょう。そうなると高金利、インフレ、増税という最悪のシナリオが待っています。日本では消費税率が8%に引き上げられて大騒ぎですがOECD平均は19%です。財政を再建するには歳出減(公共投資や社会保障費の抑制)か歳入増(増税)しかありません。また国債利回りが上昇すると財政赤字も増えます。そもそも政府の借金の利息ですからね。政府は法人税を引き下げる計画です。高齢化が進むと所得のある人が減りますから所得税収入を増やすためには少子化世代の負担がたいへんなことになります。だから広くみんなが負担する消費税率をなるべく早く引き上げるべきだとOECDは警告しているのです。(4月15日付日経新聞「黒田総裁、首相への直言」日銀は消費税10%への引き上げ延期に対して強い懸念を持っています。この問題はオフレコが多くてあまり報道されません。少しだけその内容が紹介されている記事です)

原油価格、じわじわと上がりそうですね
 原油安については先週のポイント解説でも取り上げました。そこで触れたシェールオイルとの関係に変化が現れました。米エネルギー情報局によると原油安で採算が悪化したためシェールオイル減産が始まったというのです(04/15)。このタイミングでサウジアラビアの3月の原油生産量は過去最高になったと発表されました。その結果、国際原油価格は底入れ(もう下がらないであとは上がる)観測が広がっています。観測が広がれば価格はあとを追います。
 さて国際原油価格は昨年夏の1バレル=80ドル台から今年3月の50ドル割れまで下がり続けてきました<8>。でも日本のガソリン価格はそれほど劇的に下がっていません。円安効果です。1ドル=110円から1ドル=120円に円が安くなれば1ドル分の石油を買うのに10円高くなるはずです。ところが原油価格の下落がそれ以上だった。この偶然が重ならなかったら、日本では円安による石油関連製品価格上昇が家計を直撃したことでしょう。その幸運は、どうもこの先続かない見通しです。
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米キューバ首脳会談 オバマ大統領「歴史的転換」
 キューバ革命やキューバ危機を知る世代にとってはたしかに「歴史的」です。でも皆さんはキューバが「テロ支援国家」?って感じませんか。アメリカがキューバをテロ支援国家に指定したのは1982年レーガン政権でした<1>。でも1992年には国連総会で対キューバ経済制裁解除をアメリカに求める決議が採択されています。昨年には同じ決議が賛成188、反対2(アメリカ、イスラエル)で採択されています。日本ですら賛成でした。
 テロ支援国指定が解除されれば経済制裁の根拠もなくなり、そうなると国交がないことが不自然になります。「歴史的転換」というよりも少しおくれて「歴史の流れ」に追いついたというのが実感です。でも「このタイミングで」というのが国際政治です。その後のオバマ外交に注目しましょう。来年は大統領選挙イヤーです。2期目のアメリカ大統領には外交しか仕事が残っていないものです。

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