「 2021年07月 」一覧

週間国際経済2021(24) No.274 07/06~07/12

今週の時事評論(24) 07/06~07/12

東京五輪について先生はどう思いますか

1.授業ではテーマとして取り上げませんでしたね

今学期授業の時事問題解説のコーナーでは一度も東京五輪を単独で取り上げることはありませんでした。理由は大きく言って2つあります。ひとつは、東京五輪は国際的にみて優先的な関心事ではなかったからです。もうひとつは、受講生のなかにも利害が対立しているからです。この大規模イベントには、それによって利益を得る人々と不利益を被る人々の損得に大きな差が生まれています。受講生親族の職業や、オリンピック選手の地縁、またボランティアへの参加などで意見が分かれて当然です。これはどちらが正しいという問題ではありませんし、それを教員が解説するという問題ではないと考えたからです。

でも受講生のみなさんの授業ごとの課題のなかで「先生はどう思いますか」という質問が少なくなくありました。授業は終わりました。期末レポートの課題も通知済みです。東京五輪の是非を巡る議論は教育の縛りから解放されました。今回から「今週のポイント解説」ではなく(つまり教材ではなく)、「今週の時事評論」、それは個人的な考えを綴るまさにブログそのものでしかありません。ここで遅ればせながら質問された受講生にお答えしたいと思います。解説ではありません、言うなれば「雑感」です。

2.ぼくは招致そのものに反対でした

驚くことでも違和感を覚えることでもありませんよね。まずぼくはスポーツ観戦が大好きですから、7月~8月開催が前提である以上、東京での開催には反対です。競技者に良好なコンディションを提供できないし、競技に公正さを求められないからです。まず暑すぎます。東京でやるなら4月か10月ですよね。そしてアメリカとの時差です。IOC収益の大半を握るアメリカテレビ局の視聴率のために競技時間(そして期間)が決められるなんて。アスリート・ファーストからほど遠いのですから。

そもそも世界の各都市で招致を希望する都市もあれば、まっぴらごめんの都市があって当然ですよね。実際のところ招致を希望する都市は毎回激減しています。2024などはパリとロサンゼルスの一騎打ちでした。そして多くの立候補都市が住民投票の結果、招致撤退に至っています。ウィーンやボストン、冬季ではスイスのシオン、そしてIOC会長バッハさんの母国ドイツのハンブルグでも。ついにIOCは立候補する前に住民投票を済ませるように求めたくらいです(途中で撤退されるとブランドに傷がつくからだそうです)。

なぜオリンピック招致は住民投票で否決されるのでしょうか。住民の支出に見合う見返りがないからです。莫大な税金を投入するのですから、その可否を納税者に問うことが民主主義ですよね。ですから、むしろ住民投票をしなかった東京都が例外的なのです。住民投票をすれば賛成の意見も反対の意見も見比べて議論にも参加できます。ぼくは東京五輪があるべき民主主義的手続きをスルーしていると考えています。

3.経済効果?

それなのにメディアは、一方的に「オリンピック経済効果」を垂れ流します。笑ってしまったのは1988年のソウル五輪を例に挙げている人たちが多かったことです。韓国はそれで海外からの借金を返済できない経済危機から奇跡的に復活したと。「それで」は間違いです。ソウル五輪までの3年間の高度経済成長は1985年プラザ合意による急激なドル安円高、国際金利の急降下、さらに原油価格の急落が同時に重なったことで説明するべきです。そしてソウルは例示するのにアテネ五輪後のギリシャ財政危機には触れないのもアンフェアだと思いました(その後のリオ五輪を経たブラジル経済も例示するべきでしょう)。

ましてやGDP規模世界第3位の日本が、オリンピックを開催するだけでどれだけGDPを増やすというのでしょうか。当時から日本への外国人観光客消費は円安をテコにして急増していきます。年間2000万人を超え、4000万人に達する勢いです。ここに1ヶ月足らずのイベント開催でどれだけインバウンド需要が積み増しできるのか。その一時的需要に応えようとする宿泊施設などの供給急増は、オリンピック後にどうなるのか。

競技場など箱物建設の投資も急増するでしょう。それも税金です。しかもオリンピック終了後も維持費を財政的に負担しなければなりません(民間に売却すると言いますが、それを買って採算が合うなんて考えられません)。

雇用だ、とも言います。たしかに建設・土木、宿泊、広告、飲食、交通および旅行などで求人は増えるでしょう。しかしそれは臨時の需要ですから、非正規雇用が急増する一方で、正規雇用は抑制されるでしょう。

日本経済最大の課題は、第一にGDPの2倍規模に膨らむ財政赤字、この対GDP比は世界でダントツです。第二に、少子高齢化。東京圏は少子化の「ブラックホール」です。第三に、賃金が増えないこと。これがデフレと労働生産性停滞の原因となっています。

つまり東京で巨大イベントを開催することで日本経済を活性化させようなんて戦略は、効果がないばかりか、むしろ逆効果を生むと考えていました。2013年9月に招致が決定した当時は教室内に利害対立はありませんから、その年度の後期授業でこの持論を講義しました。すると、学生たちに「そんなんゆうてるの先生だけやで」と訝しげな顔をされてしまいました。みなさん例外なく歓迎していたのです。

4.復興五輪

それ以降ぼくは学生たちに「東京五輪の経済効果について著している本をネットなどで検索してみてください」と呼びかけます。でもそう、まともな本は出ませんでした。東京五輪の経済効果なるものを体系的に一冊の本にすることは誰にもできなかったのだと思います。

たしかに東京都も自民党も五輪招致の理由を経済効果だとは言いません。言っていたのはその取り巻きたちでした(著作物ではなくコメントとして)。しかしこれを否定することもなく、期待させ、世論調査の賛成圧倒多数を得たのです。そのうえで、招致理由とされたのが「東日本大震災からの復興を世界に示す」というものでした。

ぼくは当時、なによりもこの「復興五輪」という招致理由に憤慨していました。もしかりに復興が理由なのならば、被災地で開催するべきだと。例えば「フクシマ2020」ならば納得するし応援もすると。それはできない?ならばどこの復興だと。

福島は安全だ安全だと原発を押しつけられ東京に電力を供給し続けて被災しました。その地の復興の目処が立たないままに「復興」の看板だけを借りて、日本中の利権が集中する東京の利権をまた太らせるなんて。原発災害について安部さんは「アンダー・コントロール」と言い放ちました。英語が苦手なぼくはその言葉を「支配下にある」と誤訳したほどです。

被災地復興に必要なものは、まず人手と資材です。その人手と資材を被災地から取り上げて東京五輪建設に投入しながら、それを「復興五輪」と名乗る神経をぼくは恐れました。そして悔しさに震えました。なぜ、その人手と資材と資金を、1日でも早い東北の復興に向けないのか、そうあるべきだという世論が立たなかったのかと。

5.「やってよかった」になるでしょう。でもそれでいいわけがありません。

新型コロナ感染が拡大するなかでの開催強行については言わずもがなですが、医療機関が逼迫し、飲食店が「ピンポイント」で締め付けられる中で、それでもなぜ開催するのか、その理由を問われた責任者たちは「安心安全」だとか「平和」だとか、そのイミフ加減もさることながら決して「復興」とは口にしないところにあらためて復興軽視が見て取れます。

2年延期論が大勢になるなか、安部さんはバッハさんとトップ会談で「1年延期。完全な形で」と決めてしまいました。2021年9月の自民党総裁任期、10月の衆議院任期という政治日程が無関係だとは思えません。途中で辞めたその安部さんは、「反日の」人たちが中止を主張していると平気で語っているということですが、感染者を増やしてはならないと願う世論の過半がこの人にとっては「反日」なのですね。

こうして招致責任者のひとりが世論対立を煽るなかで、東京五輪のモットーが「United of emotion」になったと突然知らされました。国論分裂の中でUnitedですか。どうも「安心安全」もそうですが、ないものをあるかのように言いくるめようとするのはやめていただきたい、うんざりします。

それでも、スポーツという表現形態が人々に与えるエモーションの力は偉大です。ましてやドラマ仕立てのアスリート・ストーリーなど見せつけられたら、ぼくのような人間はイチコロで感動してしまいます。結局「でも、やってよかったね」と感じる人々が多い時期もあるでしょう。それは最初に言ったように正しいとか正しくないとかといった問題ではないのです。しかしそれは、それこそemotion「情緒」に過ぎません。

「United of emotion」に日本語訳はないそうです。しかたがないので英語が苦手なぼくが訳しましょう、「情緒的一体感」。大義なく、戦略なく、エビデンスなく。最後に頼るのはエモーションですか。その「情緒的一体感」はひとたび部分的に成功するでしょう。ぼくが保証します。でもそんなことのために何をどれだけ犠牲にしてきたのか。感動したからよかった、それでいいわけがありません。

東京五輪は始まったばかり、いいえ、そうではありません。金メダルが何個とか、感染数がどれだけ増えたかとか、それから評価するというものではありません。招致の段階から延期そして強行開催、すべての総括はとっくに始まっているのです。

ソフトボールの上野さんが人差し指を空に突き上げる姿をまた見たいなぁ。阪神の梅野に出番はあるのかなぁ。この情緒はぼくのものです。バッハさんや菅さんや小池さんたちと共有する「一体感」なんて、マジでお断りします。

きっと、みんなそうですよ。覚悟してください。

日誌資料

  1. 07/06

    ・中国、米へ情報流出警戒 滴滴などネット企業3社を審査
    「米で上場」が共通項 成長力より統制優先
    ・OPECプラス協議中止 減産で溝 原油2年9ヶ月ぶり高値 <1>
    ・英、19日にもコロナ規制撤廃へ 感染増でも死者抑制 懸念の声も
    ・日本株「一人負け」 中長期投資で海外勢離れ <2>
  2. 07/07

    ・中国、海外上場の規制強化 証券法を域外適用 データ越境を警戒
    中国テック株総崩れ 統制懸念、NY株208ドル安
    ・習氏、独仏首脳テレビ協議 欧州の米追随けんせい 独仏、人権・強制労働に懸念
    ・米、台湾独立「支持せず」 米国家安全保障会議のキャンベル氏
    ・太陽光、30年度2倍以上に 19年度比、政府検討 環境省が2000万kw増強案
  3. 07/08

    ・米緩和縮小を議論 FOMC6月議事要旨 早期化予想も
    ・米の37州司法当局、グーグル提訴 アプリ配信巡り 独禁法提訴4件目
    ・コロナ死者400万人超 世界累計 <3>
    ・経常黒字85%増 5月1.9兆円、輸出回復
  4. 07/09

    ・欧州中銀、物価目標「2%」 一時的な上振れを容認 緩和長期化の構え
    ・中国卸売物価8.8%上昇 6月 資源高影響 なお高水準
    ・世界のエネルギー消費昨年4.5%減 英BP調査 コロナ影響 減少率、戦後最大
    ・コロナ感染 世界で再拡大 デルタ型、104ヵ国で確認 接種率低い国で顕著
    ・アフガン撤収「来月末完了」 米大統領 テロ組織弱体化を強調
  5. 07/10

    ・西村氏発言「飲食店に金融機関が働きかけを」政府が撤回 <4>
    ・米、大企業の監視強化 大統領令署名、競争促す M&A審査厳しく
    ・米、短期で物価上振れも FRB議会報告書 経済再開で需要急増
    ・タイ、ベトナムで最大都市封鎖 接種遅れ、日系企業にも打撃 <5>
  6. 07/11

    ・法人課税で「歴史的合意」 G20財務相会合、最低15%以上 <6>
    10月決着へ詰め 独自デジタル税撤廃など
  7. 07/12

    ・東京都、4度目緊急事態宣言 酒提供を一律停止 「まん延防止」京都・兵庫解除
    ・カリフォルニア州で54.4度 専門家「気候変動の影響なしには考えられない」
※PDFでもご覧いただけます
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