週間国際経済2021(22) No.272 06/22~06/28

今週のポイント解説(22) 06/22~06/28

日本とアメリカの国勢調査から何を読みますか

1.日本の総人口0.7%減

まずは日本の国勢調査(2020年速報)に関する記事の見出しです。日本の人口は5年前から0.7%減って、国別人口規模ランキングで11位になったという記事です。ぼくは先日の授業で学生たちにこう問いました、「この見出しだけならそのままスルーしますよね」と。日本の人口が減っていることは知っているし、別に人口規模でランキングを争っているわけでもないし。わかります。でももう少し記事の内容を読み進んでみましょう。

「戦後初めてトップ10から陥落した」、「1950年には世界5位だった」。ぼくの恩師の「つまるところ経済力は人口や」という言葉は紹介しましたよね。もうちょっと読みましょう。「人口の上位20ヵ国のうち減少したのは日本だけだった」、あれ、なんか心配ですね。

さらに読み進めましょう。「もっとも労働力の源泉となる生産年齢人口(15~64歳)で見ると減少に転じた国も多い。国連の人口推計によると日本は5年前に比べ4.2%と大きく落ち込んだが、台湾が2.2%減、韓国が1.5%減、中国が0.9%減とマイナスになった」。なんだ日本だけじゃないんだ、ちょっとホッとした。

と、安心する前に、もう少しいっしょに考えてみましょう。

2.東アジアの人口減

日本の総人口減が0.7%に対して生産年齢人口減は4.2%、15歳未満の人口はもっと減っています。つまり労働力の源泉が急減しているということです。それも総人口で日本の半分以下である韓国や台湾の減少率の2倍から3倍ですから、生産年齢人口はそれらの国と比べて5倍以上減少しているということになりますね。

次に台湾、韓国、中国といえば奇跡的な高度成長を達成してきましたが、その成長のエンジンは相対的低賃金による輸出増大でした。そしてこれら地域の消費財輸出は日本からの資本財(部品や施設材)輸入に依存してきました。この国際分業体制という相互依存関係で東アジアは持続的に成長してきたわけです。そこで「労働力の源泉」が減少に転じているという情報を、この記事は与えてくれているわけです。

さらにこうした労働力不足は海外労働力の受け入れで補完することも考えなくてはなりませんが、その外国人労働の受け入れでもその量と質において日本は東アジア各国との競争にさらされるということを意味しています。この点について例えばアメリカ国務省は7月1日、世界の人身売買に関する報告書で、日本について技能実習制度を「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」として問題視しています。

もっと議論を進めましょう。これらの国々は共通して高齢者人口は増加していますからそれだけ社会保障費は増加し、財政を圧迫します。すると産業支援に向けた財政支出余力は弱まりますし、長期金利上昇に圧力がかかりますし、為替レート安定にも支障が出るでしょう。こうしてさまざまな生産コスト負担が大きくなる連鎖が生まれます。またこれらの国々は共通して天然資源に恵まれていませんから、優位にあった資源とは若く優秀で安い労働力だったのです。その優位性を各国経済が同時に失いつつあるということです。

見出しだけでスルーできる記事ではありませんね。

3.アメリカ白人人口、初の減少

次はアメリカの2020年国勢調査です(民間研究所推計)。アメリカの国勢調査は10年毎です。調査開始以来、白人の人口が減少したのは今回が初めてです。とはいえ白人人口減少は2016年からですから、それほど新鮮なニュースではないかもしれません。でもこの4年で115万人減っているというのです。一方、ヒスパニック系人口は2010年以降毎年100万人前後増えているということです。

するとそう遠くない時期に人口構成が逆転するかも、その通りです。今回の国勢調査を推計したブルッキングス研究所は2025年にはアメリカの白人人口比率が49.7%になり、ついに非白人の人口を下回ると分析しています。実際15歳以下の若年層ではすでに2018年に50%を割っています。つまりそれまでのマイノリティがマジョリティを構成するようになるということで、それはいくつかの州では現実になっています。

1960年の国勢調査では白人の人口構成比は約89%だったのですから、アメリカ社会にとってこれは劇的な変化だといえるでしょう。マジョリティだった白人たちが、マイノリティを見下すか無意識に優越感を持っていたとするならば、自らがマイノリティになることは社会的に「転落」だと感じる人も多いだろうということですね。

4.トランプ現象

トランプ大統領がメキシコ国境に壁を建設したり、白人至上主義者を擁護したり、BLM運動を誹謗したり、よくもまあそんなとんでもないことができたものだと呆れたりしましたが、それはこうしたアメリカ社会の地殻変動というか、白人のマイノリティ化への危機感を利用した意図的な戦術だという指摘もありました。

トランプ政権で国防長官を務めて辞任したマティスさんは、「トランプ大統領は国民を団結させるふりすらしない」と批判していましたが、これはずいぶん控えめな表現だと思います。むしろ分裂を助長することで、その対立の一方を強固な支持基盤にしてきたのだと思います。アメリカでヒスパニック系や黒人が民主党支持だとは限りません。むしろ意外なほど共和党支持者が多いのが実際です。でもトランプ現象はその非白人層のなかにも分断と対立を持ち込み、それを煽っていたのです。

例えば、バイデンさんは社会主義者でキューバのカストロ政権を支持していたというデマを流して亡命キューバ人コミュニティを刺激したり、新型コロナを意図的に「中国ウイルス」と連呼することでアジア系マイノリティに対する敵対心を刺激したり。最後は、例の「不正選挙」騒動です。郵便投票が不正の温床だと証拠もなく騒ぎ立て、ヒスパニック系に郵便投票が多いということに対する白人層の疑心暗鬼を刺激したのでした。

5.アメリカの民主主義と人口

トランプさんはホワイトハウスを去りましたが、トランプ現象の背景にある流れが止まったわけではありません。その流れを示した示したのが、今年3月頃から共和党主導で「投票制限法案」なるものが全47州議会に提出されたことでした。それは期日前投票の期間短縮と郵便投票時の身分証明の厳格化を骨子としていて、3月末にはついにジョージア州で成立してしまったのです。

先の大統領選挙では期日前投票と郵便投票の規制緩和でマイノリティの投票率が上昇しました。人口で逆転されても、それなら非白人有権者が投票しにくくしようという魂胆です。もちろんそこはアメリカです。その直後から抗議の波が広がります。数多くの企業や大リーグ機構(MLB)なども連盟で抗議しました。

こうした姑息な手段を断固として許さないことも大切ですが、民主主義はやはり、高い投票率あっての民主主義です。トランプ現象は投票率50%を前提にして、30%台の固い支持基盤を目指したものでしたから。

さて、白人のマイノリティ化は避けられませんが、一方でマイノリティ・マジョリティのなかでもじつは黒人の人口比率は伸びていません。伸びているのはヒスパニック系、さらにそれを上回る勢いがあるのがアジア系です。アジア系(中国系23%、インド系20%、フィリピン系18%、ベトナム系、韓国系、日系がそれぞれ9~6%)は過去10年で倍増し、その60%がZ世代で72%が英語に不自由しません(ビュー・リサーチ・センター調査)。

これがアジア系へのヘイトクライム急増の背景となっているとも言われています。悲しいことです、では済まされません。トランプ現象は多様性を拒否し、白人と非白人の対立を、さらにマイノリティ間にも「多様な分裂」を持ち込み扇動することで民主主義を挑発し、4年間にわたって人々の心を鋭く尖らせてきました。この悲劇の克服という課題をバイデン政権だけに期待するのは、荷が重すぎるというものでしょう。

アメリカの国勢調査といえば、ぼくには忘れられない記述があります(世界史の受験参考書でした)。1890年国勢調査で「フロンティア・ラインの消滅」が報告されたというものです。この年はネイティブ・アメリカンの組織的抵抗がウーンデッドニー事件(第7騎兵隊によるダコタ族虐殺)をもって終了した年でした。

今、アイデンティティを同じくする者同士の共感(sympathy)ではなく、異なる他者への同感(empathy)こそが問われているのは、そもそもアメリカ政治に限られたことではありません。「国勢調査」というなんとも味気ない統計指標には、そうした人々の様々な葛藤が、そのなかに潜みうごめいているのです。

日誌資料

  1. 06/22

    ・日経平均953円安(21日)一時1100円安 米利上げ警戒広がる
    ・NY株反発586ドル高(21日) 景気期待根強く 金融政策の思惑交錯
    日経平均一時800円高(22日)
    「資産購入、調整早めに」ダラス連銀総裁(21日) 雇用復調「今後数ヶ月で」FRB議長(22日)
    ・五輪観客1万人まで 5者協議決定 定員の50%以内
  2. 06/23

    ・膨らむリスク投資 火種に 緩和縮小意識、日米株が乱高下 マネー逆回転に懸念
    ・中国、仮想通貨締め付け 「採掘」や金融サービスに指導 <1>
    ビットコイン一時3万ドル割れ 最高値から5割以上下落
    ・米中古住宅価格、最高に 需要旺盛、5月23%上昇
    ・40年超原発、発の再稼働 関電 美浜3号機(福井県)、10年ぶり
  3. 06/24

    ・原発政策、空白続く 脱炭素と両立不透明 先送りを繰り返すのか <2>
    発電量の2割には30基必要 30年度末40年未満は20基 60年まで伸ばしても50年に20基
    ・民主派香港紙(アップル・デイリー)廃刊 資産凍結で継続断念
    ・円、1年3ヶ月ぶり安値 一時111円台前半 米利上げ観測後退
    ・マイクロソフト時価総額2兆ドル アップルに次ぎ2社目
    ・米経常赤字11%拡大 1-3月 14年ぶり高水準 貿易赤字過去最大の2684億ドル
  4. 06/25

    ・米、格差減へ金融規制強化 トランプ路線を修正 民主左派が相次ぎ提案 <3>
  5. 06/26

    ・米税制改革、なお壁高く 130兆円投資法案は合意 企業増税見送り <4>
    ・日本の総人口0.7%減1億2622万人 世界11位に転落 20年国勢調査 <5>
    ・家計金融資産1946兆円 3月末 7.1%増、最高を更新
    ・米消費支出物価3.4%上昇 5月、29年ぶり伸び
    ・米白人人口、初の減少 昨年国勢調査で民間推計 ヒスパニック系増加 <6>
  6. 06/27

    ・テスラ、28万台リコール 19年以降中国販売の9割超 自動運転不具合
    ・世界貿易4月25%増 前年同期比 経済再開、欧米がけん引
    ユーロ圏39%増 米国28%増 日本12%増 新興国20%増 アフリカ3%減
  7. 06/28

    ・東南ア、移動制限強化 タイやマレーシア インド型拡大で
    1回ワクチン接種率 タイ、インドネシア9%台 フィリピン6%台
    ・ESG社債 世界で3.4倍 今年発行28兆円 脱炭素へ調達急増
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