「 2020年07月 」一覧

週間国際経済2020(20) No.231 07/11~07/20

今週のポイント解説(20) 07/11~07/20

残念な、そして心配な日本のIT後進性

1.混迷する日本のIT行政

社会のデジタル化の速度は凄まじい。ぼくなどは辛うじてその便益にあずかってはいるものの、いざオンライン授業が課せられると、とたんにパニックに陥ってしまう。コロナ禍ははからずも、ぼくがデジタル・デバイド(digital divide)の境目でふらついていることを見せつけた。

社会のデジタル化、そう、ぼくは社会がデジタル化していると言った。その「社会」概念には知らぬ間に「政府」も含まれていた。なんら検証もなく。でもコロナ禍は、日本行政のIT化水準もずいぶん怪しいものだったことを見せつける。

10万円の定額給付金の混乱、これは世帯単位の給付に個人単位のマイナンバーで申請させるというところに問題があると思っていた。事実、オンラインより郵送のほうが効率的だという結果になった。でも持続化給付金、雇用調整助成金と申請から給付にいたる混迷は、ただならぬ「遅れ」を感じさせるにじゅうぶんな出来事だった。

申請書類の多さ、それ自体が行政IT化の「遅れ」だ。なんとか申請に成功しても、その個人・企業情報がネット画面に映し出されるという不備が出た。不備と言えば接触確認アプリCOCOAも、不具合でつまずいた。それどころか医師から保健所へ、保健所から自治体への感染者報告がFAXでなされていると知って驚いた。

デジタル・デバイドは「情報格差」と訳される。インターネットが普及し始めた1990年代後半にアメリカで社会問題となっていく。どうやら日本では、ぼくと政府の格差は知れているようだ。いや、安心している場合ではない。

この「遅れ」は残念だし、とても不安だ。ぼくも政府もいっしょに社会の求めるデジタル化に対して遅れ、世界との格差にさらされているのではないだろうか。

2.行政手続きオンライン完結1割未満

6月18日付日本経済新聞の記事にようると、中央省庁全体で行政手続きは5.5万件以上あるが、役所に出向かずネット上で完結できるのは4000件強で全体の7.8%だという。これが経済活性化の重荷になっていると指摘している。

これでは仕事がはかどらないことだろう。例えば法人設立の分野での事業環境ランキングで日本は、世界銀行は190ヵ国中106位、OECD(経済協力開発機構、37ヵ国)では30位だった。民泊用の簡易宿所を始める手続きには必要な書類が10近く、法人設立登記では印鑑届出がいる。車の名義変更には紙の車検証を運輸局まで取りに行く必要がある、など。

こうした「遅れ」が、新型コロナ対策の足かせにならないはずがないと思う。例えば世界銀行のビジネス環境ランキング1位はニュージーランド、国連の電子政府ランキング2位は韓国だ(日本は14位)。こうした国の感染対策が効率的であることは、たんなる偶然ではないだろう。

3.「遅れ」はここ数年でより顕著に

気になるのは、こうしたIT後進性が過去数年のあいだにいっそう明らかになっていることだ。ビジネス環境ランキングでは2011年の18位から30位に、電子政府ランキングでは2014年の6位から14位に、世界経済フォーラムのIT競争力ランキングでも2015年の10位から12位へと下がっている(7月18日付日本経済新聞)。

なぜだろう。まずは企業のIT投資に対する消極姿勢が指摘されている。OECDによると、日本企業は2000年から2017年までにIT投資を2割減らした。この間、アメリカは6割増、フランスは2倍になっている。

なぜだろう。やはり行政側の「遅れ」が影響していると考えられる。先に見た行政手続きのオンライン完結は、IT化政策の旗振り役である経産相(7.8%)、総務省(8.0%)という状態だ。

行政に歩調を合わせて企業が遅れているとするならば、それは行政による規制の自由化・緩和がそれだけ遅れているということを示しているのだと思う。

4.IT化の遅れはセキュリティの遅れ

ところがコロナ禍で、日本の経済活動は否応なしにオンライン化されていく。心配なのは、セキュリティの遅れだ。7月20日付日本経済新聞では、「テレワークを拙速に導入したことでシステムに欠陥を抱える日本企業の情報が、ハッカーの間で大量に流通している」というセキュリティ企業の警告が紹介されていた。

その代表が「ズーム爆撃」だ。Zoomの開発元が発見できていないソフトの弱点(これをゼロディと呼ぶらしい)が、闇市場では5000万円以上で売買されているという。企業の重要会議を盗聴し機密を盗めば、これを転売するあるいは人質にして身代金を要求する(ランサムウェア)ことで法外な利益を上げるケースが増えている(世界から日本への攻撃関連通信は昨年でも2年前の2.4倍に急増していた)。

これがコロナ禍に便乗している。しかし日本のセキュリティは遅れている。同上記事によると、3年程度の中長期のサイバー対策計画を立案するアメリカ企業が7割を超えるのに対し、日本企業は24%。人材不足も深刻で「セキュリティ人材が充足している」と回答した日本企業は9%のみだそうだ。

ホンダが先月、大規模サイバー攻撃を受けて世界9工場の生産停止に追い込まれたニュースは衝撃的だった。在宅勤務のパソコンも攻撃の対象だったという。防衛産業にも被害が出ている。NECやNTT、そして三菱電機から流出したのは最新鋭ミサイルの性能に関する情報だった。こうなるとハッキングは国家レベルだと考えざるを得ない。

5.これが技術の後進性だとは思えない

日本の情報技術先進性に対するぼくの幻想は崩れたとしても、けっして日本が技術的に落後しているというわけではなく、そう判定する材料は見当たらない。きっと、技術以外に問題があるのだろう。

最初の話に戻って、やはり日本行政のIT後進性に責任があるように思えてしかたがない。例えば、霞ヶ関の省庁間ではシステム仕様の違いからコロナ対策を協議するテレビ会議すらできなかったという。また中央と自治体とのシステム上の齟齬も明らかになった。

紹介したように、電子政府ランキング第2位は韓国で、第1位はデンマークなのだが、そこには共通点がある。それは省庁横断でデジタル化を進める権限を持つ組織をつくり成功したからだという。しかし日本行政は省庁、自治体ごとにバラバラで、またこのバラバラなシステムそれぞれを、日鉄ソリューションズやNTTコミュニケーションズ、富士通が請け負い、競争なく安定した収入に安住したという(7月18日付同上)。

こうなると、日本のIT後進性は「省益」あるいはそれと癒着した既得権益が根源にあると、ぼくは思ってしまう。「安倍1強」だとか「官邸主導」だとか、それを強みのように言うのだけれど、日本行政の意思決定に後進性はないのだろうか。それがデジタル社会の感染症対策や安全保障に実害を及ぼしてはいないのだろうか。

うやむやになりそうになっている持続化給付金の事業者「中抜き」や、大騒ぎになっている「Go to トラベル」の見切り発車。PCR検査体制の遅れも忘れてはいけない。

これらをたんに「政権スキャンダル」で終わらせず、徹底的な検証を断行しなければ、日本のIT後進性被害はさまざまな分野で問題を引き起こすだろうし、むしろ今、コロナ禍で明らかになった問題の所在を直視して、それを抜本的に改善するチャンスにしていかねばならないと思う。

日誌資料

  1. 07/11

    ・米、仏製品に報復関税検討 1月までにデジタル課税に対抗
    ・トランプ氏、米中貿易協議「第2弾」巡り「考えていない」
    ・フェイスブック広告中止400社に迫る 「投稿放置」政治リスク軽視のツケ
  2. 07/12

    ・脱石炭 コロナで加速 英、2カ月発電ゼロ 米、4月再生エネが逆転
    ・企業、国安法に警戒強める 香港「想定以上に恣意的」 <1>
    ネット・報道統制も 米の対中制裁で板挟み
  3. 07/13

    ・米新規感染6.1万人 フロリダ、4月のNY超え
  4. 07/14

    ・米「中国の領有権主張は完全違法」 南シナ海摩擦で警告 <2>
    米、介入へ転換 中立やめ制裁に布石
    ・米財政赤字6月最大に 92兆円 前年同月比100倍 19会計年度赤字に匹敵
    ・独、企業向け補助金突出 コロナ下EU全体の4割強 単一市場ゆがめる恐れ
    ・世界感染者1300万人 WHO「多くの国が誤った方向」
  5. 07/15

    ・中銀デジタル通貨「検討」 骨太方針明記へ 政府「各国と連携」 <3>
    ・英、5G巡るファーウェイ製品27年までに完全排除 来年から購入禁止
    ・中国、ASEAN重視鮮明 1~6月貿易額、初の首位に
    ・コロナ、米で再規制 9州に拡大 経済回復ブレーキ
    ・米、香港自治法が成立 中国金融機関に制裁可能 優遇制度「本土並み」<4>
    対中制裁「ドル封じ」の構え 資産凍結や融資禁止 金融不安、報復リスクも
    ・環境投資4年で220兆円 バイデン氏が政策発表
  6. 07/16

    ・中国3.2%成長に回復 4~6月 生産・投資持ち直し <5>
    消費・輸出は足踏み 雇用なき復活 弱い消費や洪水、不安要因
  7. 07/17

    ・中国5社製品使う企業 米政府、来月から取引排除 日本企業800社対象<6>
    ・Go to トラベル 東京発着除外 全国一律から転換
  8. 07/18

    ・米コロナ対策格差広げる 緩和マネー流入、株価が上昇 一部富裕層に恩恵集中
  9. 07/19

    ・米、月内にも追加財政出動 210兆円規模か 雇用支援など延長
  10. 07/20

    ・G20「V字回復」想定変えず 迫る第2波 協調欠く
    ・出稼ぎ送金25%減 今年見通し 世界で失業増、新興国打撃
    ・輸出6月26.2%減 4カ月連続2ケタ減 中国向け復調、横ばい
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