週間国際経済2021(23) No.273 06/29~07/05

今週のポイント解説(23) 06/29~07/05

中国共産党100年

1.非連続的100年

7月1日、北京の天安門広場で中国共産党創立100年を盛大にお祝いする行事が行われました。厳密には「創立」というよりも1921年の第1回中央大会から100年で、それも7月1日ではないようです。そんなことよりこの式典、ぼくには中国共産党100年の区切りというよりも習近平さんが総書記に選出された2012年から9年目、つまり10年目まで「残り1年の節目」という印象だけが残りました。

世界史の授業ではさらっと習いましたね。中国共産党が上海で創立され、国共合作から分裂そして長征、西安事件から第2次国共合作、そして内戦を経て中華人民共和国建国。学生のみなさんは驚くでしょうけど、ぼくたちの世代は中学生くらいのときに『毛語録』(毛沢東さんの名言集)ブームがあって、どの本屋さんでも平積みされていたりしたんですよ。

そんなこともあって、大躍進、文化大革命とか知るようになって、田中角栄さんが中国に行ったり、パンダが来たり、「四人組裁判」なんかは日本のテレビなんかでも毎日のように取り上げられていたりして。とくに興味はなくても周囲では、何かと騒がしい中国の話題には事欠かさなかったのでした。

大学生の時は、鄧小平さんの「4つの近代化」とか経済特区とかが注目され、なんとなく安定して成長しているんだなと思っていたら衝撃的な天安門事件があって、社会主義市場経済とか意味不明な言葉が出てきて、香港が中国に返還されて「一国二制度」とか。

とにかく「揺れ」が半端なく激しいんです、中国は。ですから100年、と言われても、中国共産党の歴史は一貫した流れというよりもそう、「非連続的」なイメージが強いんですよね。ですから習近平さんが天安門の楼上で、かつてそこで建国宣言をした毛沢東さんみたいな人民服を着て演説する姿を見ても、それまでの途中経過の激動の時代をワープよろしくスルーしたみたいな、言いようのない違和感がぼくには残りました。

でもそれは演出というよりも、むしろリアルな中国の現住所が表れているとも感じました。そう習近平さんの9年間も、それまでの中国共産党の歴史から「非連続」だったと。でも習近平さんにとっては非連続のなかの連続、つまりこの100年式典から来年の冬季北京オリンピックそして秋の中央大会へと繋がって、いや繋げていかなくてはならないんだろうなって。

習近平さんの9年が、それまでとどう「非連続」なのかというと、大きく言って二つ、「集団指導体制」と「改革開放」という観点から非連続なのだとぼくは思います。

2.集団指導体制からの非連続性

中国共産党のアイデンティティにとって、なにより大切なことのひとつが、毛沢東さんに対する評価です。50人くらいしかいない創立メンバーの一人ですし、抗日戦争、国共内戦そして建国のリーダーです。でも大躍進という突拍子もない経済政策に失敗して失脚し、復権のために文化大革命という激烈かつ長く真っ暗な時代をもたらした中心人物でした。

毛沢東さんの死後(1976年死去)、「四人組裁判」というドラマのような政治裁判で騒乱を平定した中国共産党は、さて毛沢東さんの功罪を問わなければならないようになります。そこで導かれた結論のひとつは、やはり「個人崇拝」は危ない、あってはならないということでした。だからこれからは、「集団指導体制」で行こうと。

以降、規約通り5年に一度中央大会を開いて人事を決め、党のトップである総書記は2期5年で交代すると憲法に明記し、最高幹部は定年70歳、世代交代のために次の世代のリーダーを配置する、というものです。世界もこれを歓迎しました。少なくとも、もう長期独裁はないのだと安心したのです。とくに欧米の人たちは市場経済には議会制民主主義こそが相性がいいと信じ込んでいますから、中国が計画経済から市場経済に移行して経済成長すれば徐々に民主化してくれるだろうと期待していたのです。

ところが習近平さん、2期目を迎えた2017年の党大会では次世代から政治局常務委員(最高幹部)を選ばす、党規約に「習近平思想」みたいは言葉を入れたのです。なんか「毛沢東思想」みたいじゃないかと、欧米は警戒しだします。そして2018年の全国代表者大会で国家主席の任期2期10年という規定を撤廃してしまったのです。

すると2022年の党大会で習近平さんが3期目に入ってしまえば、もう誰も止められなくなってしまう。アメリカが警戒心を最高レベルに引き上げます。逆に習近平さんにしてみれば、2022年の党大会を乗り切れば長期体制が既成事実化する。その大切な1年後の一大局面に向けたなかでの、この中国共産党100年だったわけです。

3.改革開放からの非連続性

ようやく定着してきた集団指導体制をひっくり返すなんて荒技には、そうとうなエネルギーが必要です。なんといっても中国共産党内部の不満に火がつきかねません。ですから習近平さんはライバルたちを退場させようとします。その大義名分が「腐敗一掃」でした。中国共産党エリートたちが次々と失脚していきます。その数膨大で、こんなに中国共産党って腐敗していたのかと国民にさらしてだいじょうぶなのかなと心配になるくらいでした。

エリートたちは「改革開放」路線のなかで頭角を現してきましたから、「腐敗」の温床は改革開放(外国資本・技術の導入)ということになりそうです。そこにトランプ政権が中国に経済制裁を連発することが重なりました。トランプさんは単純に貿易赤字を減らすという幼稚な発想止まりでしたが、中国の驚異的な台頭を恐れるアメリカの経済界、軍部およびその一体化したグループは、知的財産権侵害制裁と一方的関税引上げによって中国の成長エンジンを封じ込めようとしたのです。こうして中国経済は「外向きの」成長から「内向きの」成長持続へと、非連続的に転換せざるを得なかったのだと思います。

さらに「世界の工場」としての中国経済そのものにも、転換点が近づいていました。それは人口減です。2020年の中国国勢調査では出生数が前年比2割減り、生産年齢人口も0.9%減とマイナスに転じ、一方で65歳以上は過去10年で6割増えました。あまりにも急速な経済成長は都市と農村の格差を生み、それは農村部から都市部への凄まじい人口流出をもたらしてきたのですが、こうした低賃金労働の源泉は無尽蔵ではなかったのです。

都市と農村の格差はさらに拡大し、都市部でも若年層の失業率は14%に迫り、未来をあきらめた若者の「寝そべり族」という言葉がネットで流行っているといいます。ある意味で強権的国家では自由と成長がトレードオフの関係にあって、成長の恩恵がなければ自由が抑圧されていることに対する不満が強まるでしょう。

今、習近平指導部ではこのバランスが崩れています。共産党内部のライバルたちをほとんど失脚させたとはいえ、非連続以前の鄧小平路線のエリートたちの怨念は積もりに積もっていることでしょう。滑稽なほどに荒々しく、決して得にもならないあの「戦狼外交」も、国内引き締めを強く意識したものだと見れば、説明がつくのかもしれません。

4.ハイテク企業締め付け

昨年11月にアリババ集団傘下の金融会社アントの上場を中国金融当局が延期に追い込んだことは驚きでした。さらにアリババには今年4月に独禁法違反で3000億円の制裁金を科しました。トランプ政権が動画投稿アプリTikTokに圧力をかけたときの中国政府の冷淡さにも違和感を覚えました。そしてついにNYに上場したばかりの配車アプリ滴滴(ディディ)に対してスマホアプリのダウンロード停止を命じます。

かつて中国経済のアキレス腱は非効率な国有企業の採算悪化と債務膨張でした。それを横目に驚異的なスピードで成長してきたのが新興ハイテク起業家たちでした。かれらは中国政府がグーグルやフェイスブックなどアメリカの巨大IT企業の国内進出を食い止めるなかですくすく育ち、しかも中国共産党の経営に対する介入からもほとんど自由でした。同時に莫大な海外資金を調達するまさに「改革開放」の申し子だったと言えるでしょう。

彼らは個人情報保護のハードルが低い中国市場で独占的にデータを収集することで巨大化していきます。習近平さんにとってこれは、さすがに脅威に映ったことでしょう。国内統制の鍵は国家による一元的情報管理です。ましてやデジタル人民元を戦略的課題に据えているわけですから、民間企業が金融決済市場で強い立場にあるなんて許せないでしょう。

習近平さんは今年の3月、プラットフォーム経済の不健全性を強調し、6月には「データ安全法」を成立させました。その意図について共産党系メディアの環球時報(7月4日論評)が率直に本音を吐露しています。「ネット大手が国家よりも中国人の個人情報を集めた膨大なビッグデータを掌握することは絶対に許さず、かれらが勝手に利用する権利を持つことはもっと許さない」と(7月6日付日本経済新聞)。

5.非連続は連続する

中国共産党100年は、来年秋の中央大会で習近平体制3期目を迎えるための大切な儀式だったのでしょう。そこで見せつけられた先祖返りは、圧倒的権威を示すための演出なのだと思います。それだけ、中国史の非連続はたいへんなことなのです。

さて習近平さんにとって最大のリスクは、次の成長軸、経済成長を持続させるためのエンジンは何なのか、それを示せないということだと思います。思想は先祖返りができたとしても、経済成長モデルは後戻りできません。

たしかに中国国有企業は有望な新興民間企業を次々と傘下に収めだしています。それは中国共産党指導ネットワークの再編の試みなのかもしれません。それが「社会主義市場経済」だったのですから。しかしそれは持続可能な戦略でしょうか。米中で資本市場を分断し、企業統制を強化することはできても、中国経済は再び非効率の悪循環にそれこそ先祖返りしてしまうでしょう。

実際すでに中国の社債の債務不履行が急増しています(7月5日付同上)。このデフォルトの4割は国有企業です。中国当局の企業統制強化を海外投資家は警戒し、資金調達コストも急上昇しています。これを補っているのが中央や地方の政府が利払いなどを支援する「暗黙の政府補償」だと指摘されています。だとしたら、こんなこと続きますか。

生産年齢人口減少、高齢化進行による社会保障費負担増、新興ハイテク企業のモチベーション低下、資金調達コスト負担増大と企業物価上昇。そこにこれからコロナ禍で停滞した主要国生産が復活し、サプライチェーン再編から疎外されたなら、中国経済は一体何をエンジンにして成長し、14億もの人口の生活を維持していけるというのでしょう。

ぼくは、できないと思います。習近平さんがどう思っているかはわかりません。たしかなことはあと1年、3期目を迎えることができさえすればと、そのときまでは今の戦略を変えるつもりはないだろうということです。中国共産党はつねに国際情勢より国内情勢を優先してきました。それだけ中国共産党内部の権力闘争は熾烈だったからです。

しかし過去30年間、グローバリゼーションの恩恵をどこよりも多く受けていたのは中国経済でした。そしてどれほど強大になろうとも、国際的に孤立した大国を維持発展させることは不可能だと思います。同時に中国経済を封じ込めたグローバリゼーションの立て直しもまた合理的な選択だとは思えません。

中国共産党史のこれまでが非連続的であったように、これからもまた非連続的なのだろうとぼくは考えています。来年の秋以降、中国共産党大会とアメリカ中間選挙という節目を越えたとき、その非連続はまた始まるだろうと。これはあまりに楽観的なシナリオでしょうか。だとしても、そのシナリオへの備えは必要だと思います。

日誌資料

  1. 06/29

    ・失業率3.0%に悪化 5月、求人倍率横ばい1.09
    休業者は210万人超 企業、雇用調整助成金頼み続く 雇用、人材再配置が課題
    ・フェイスブック独禁法訴状棄却 ワシントン地裁 「独占の立証、不十分」<1>
    米巨大IT規制難路に 独禁法改正議論加速へ 欧州は見直し先行
  2. 06/30

    ・米住宅価格15%上昇 4月、「先例のない」市場加熱に警戒感 <2>
    FRB、住宅高騰に悩む ローン担保証券購入減額の議論
  3. 07/01

    ・税収、コロナでも最高 昨年度60.8兆円
    前年度比 法人税、0.4兆円増の11.2兆円 消費税、2.6兆円増の21兆円 所得税19.2兆円
    ・英、EU労働者離れ打撃 「完全離脱」半年 コロナで帰国、ビザ必要に
    ・滴滴(ディディ)NY上場 時価総額7.3兆円 中国勢、最高ペースに
  4. 07/02

    ・中国共産党100年(1日)習氏「外部の圧迫許さぬ」「台湾統一は任務」
    ・法人課税 大枠で国際合意 130ヵ国・地域、23年導入目指す <3> <4>
    最低税率は15%以上 デジタル課税、10兆円規模 コロナ後の財源確保
    ・米財政赤字330兆円 21会計年度予測 コロナ前の3倍
    ・仏、ユニクロなど捜査 計4社 ウイグル人権問題巡り
    ・6月内閣支持率18~39歳が底上げ 宣言解除・酒解禁に肯定的 <5>
    ・トランプ氏一族企業起訴 NY検察 脱税罪、CEO否認
  5. 07/03

    ・米就業者、85万人増 6月、市場予測上回る 人手不足、回復なお途上
    ・中国当局、滴滴(ディディ、配車アプリ最大手)を審査 国家安全上の理由
    ・米、接種遅い州で感染増 南部や中西部、当局が警鐘
  6. 07/04

    ・NY株、再び適温相場に 最高値更新 景気回復、頭打ち懸念
    ・米「成人7割接種」届かず 独立記念日の目標 拒否層が壁に <6>
  7. 07/05

    ・中国、滴滴の違法行為認定 スマホアプリのダウンロード停止
    ・ウイグル問題、太陽光発電に影 パネル主原料、5倍に高騰
    シリコン生産、中国がシェア8割 4割を新疆地区 米が輸入禁止に
    ・中国、社債不履行2兆円 上期最高、企業の信用揺らぐ 低格付け、利回り10%台
    ・住宅ローン世帯 膨らむ負債超過 低金利背景、20年で4割増
    老後の生活を圧迫の恐れ
※PDFでもご覧いただけます
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