週間国際経済2015(16) 07/13~07/19

07/14
・ユーロ圏首脳会議 ギリシャ条件付き支援合意(13日ブリュッセル)<1>
 15日までに年金改革など財政法案を議会で可決すれば3年で11兆円超支援実施
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07/15
・安保法案、与党単独可決(衆院特別委)<2>
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・イラン核協議最終合意 制裁解除、原油輸出拡大へ <3>
 核拡散に歯止め 中東新秩序へ一歩 対「イスラム国」米と共闘も 日欧企業、商機狙う
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・中国、7%成長で横ばい 4-6月 政策動員で目標維持 <4>
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・日銀金融政策決定会合 16年度物価見通し下げ 1.9%上昇 緩和は維持

07/16
・米利上げ「年末までに」イエレンFRB議長、米下院で証言 経済見通しに明るさ
・IMF、対ギリシャ「大幅な債務減免必要」最新の報告書で指摘
・米、安保法案可決を歓迎 国務省報道官 「同盟強化の努力を歓迎する」
 法案は国際的安全保障に「日本がより積極的な役割を果たすことにつながる」
・ギリシャ議会 改革法案可決
 アテネで改革反対デモ 公務員らも相次ぎスト

07/17
・安保法案衆院通過 集団的自衛権行使へ転換
 ⇒ポイント解説あります
・ギリシャに追加資金 欧州中銀、銀行再開を支援 EU、国債償還へつなぎ融資も
・投資マネー、ドル回帰 FRB議長「年内利上げ」で 金や原油下落 <5>
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・車販売、米頼み鮮明 1-6月、新興国軒並み低調 <6>
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07/18
・世界銀行、アジア投資銀行と協調融資具体化へ協議 今年後半に
 キム世銀総裁「AIIBは重要なパートナーであり共通の目標がある」
・東南アジアからマネー流出 米利上げ・中国景気減速でリスク回避に傾斜 <7>
 マレーシア・リンギ、インドネシア・ルピアともに通貨危機以来の安値 先進国へ逆流
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・EU、ギリシャ支援決定 独が承認 つなぎ融資1兆円弱
・新国立競技場、首相「白紙に」秋までに新計画、再びコンペ 20年春完成

07/19
・日本景気回復、足取り鈍く 中国の減速で輸出に影
 中国株安→中国消費低迷、自動車販売減→日本自動車生産低迷、訪日観光客消費減

※PDFでもご覧いただけます
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ポイント解説(16) 07/13~07/19

安保法案、まだ何が問われていないのか

 今回のポイント解説は、ごめんなさい、「解説」ではありません。安保法案について、「何が問われているか」また「何がまだ問われていないのか」をぼくなりに問い直してみたいと思います。

 安全保障関連法案は2本に分かれています。1本は「国際平和支援法案」で自衛隊が海外で米軍などの後方支援ができるようにした新法です。もう1本は「平和安全法制整備法案」でそれまでの安保関連法10本を一括改正するものです。自衛隊法やPKO法など長年の国会審議や何期もの国会にわたって成立してきたものがまとめて提出されました。これらを一回の国会でかたづけようとしたのです。無理を承知ではじめから単独可決ありきの態度です。「違憲・合憲」のやりとりや「歯止め」(何が「存立危機事態」で何が「重要影響事態」なのか)についてのやりとりは、ここであらためて問うことはしません。

 誰の目にも明らかなことは110時間の審議の結果、国民は納得していないということです。各メデイアの世論調査では「反対」が「賛成」の2倍、「説明がじゅうぶんでない」が8割に達しています。もうひとつ明らかなことは、本来この国会で充分な審議が必要とされていた、財政再建と「骨太の方針」、アベノミクスの評価見直し、TPP交渉公約「聖域5分野」など、日本経済の将来について決定的に重要な問題がまったく扱われなかったということです。

 さて法案は衆議院を通過して参議院に送付されました。ここで60日間かければ衆議院で再可決という作戦だそうです。ぼくは、まだ問われていないことがあまりにも多いと思います。多くの国民がそう感じているのと同じように。

まだ何が問われていないのか

その(1)財源

 自衛隊のリスクは増えるのか、という質問に対して防衛大臣が「増えない」と断言したときは唖然としました。その後も「訓練や装備が充実するから」とか「国民全体のリスクは小さくなる」とかで逃げられてしまいました。逃げられない質問があります。自衛隊と国民の「コストは増えるのか」、「その財源はどこから持ってくるのか」。この法案によって自衛隊の活動範囲と任務は飛躍的に拡大します。すでに指摘したように、これは財政的に「軍拡」(防衛予算の増大)であることは否定できません。日本の財政問題は待ったなしの状態です。「骨太の方針」通り高度成長を果たしてもなお財政再建のめどがたちません。歳出全体を抑制しなければならないときに防衛予算を増額するには何かを削減しなければなりません。必然的にこれは社会保障とのトレードオフになります。軍拡と財政再建を同時に達成するために「国民の皆さん身を削ってください」と答弁するべきです。

その(2)自衛隊と憲法

 自衛隊は「戦力」です。憲法9条の「陸海空軍その他戦力は、これを保持しない」との整合性は、自衛隊は個別的自衛権の範囲にある「専守防衛」の存在であることで「合憲」とされてきました。しかし集団的自衛権行使容認の閣議決定とそれにともなう安保法案によってその整合性は崩されます。安倍首相が言う「憲法」でも「砂川裁判」最高裁判でも自衛権は否定されておらず、そこには個別的か集団的かの区別にはふれられていないという解釈に百歩譲っても(譲ってはなりませんが)、少なくとも自衛隊は従来の憲法解釈に基づいてようやく「合憲」だったわけです。つまり自衛隊法改正によって自衛隊は「違憲」になるのではないか、これが問われていないのです。この薄氷を踏み砕くのならば、どうしても憲法改正という手続きを避けることができないはずです。

その(3)日米安全保障条約改定の必要性

 安倍内閣が集団的自衛権行使容認の法的根拠とする最高裁「砂川判決」は1959年12月、つまり新安保協約署名の1ヶ月前、国会強行採決の半年前のものです。つまり旧安保の在日米軍は外国の軍隊であり憲法のいうところの戦力ではない、その在日米軍駐留は高度な政治判断であるから違憲かどうかは司法権の範囲外にあるというものでした。まず、これがどうして集団的自衛権の合憲性の根拠となるのでしょうか。さておき(おいてはなりませんが)、直後に改定された日米安保条約は砂川判決が認めたところによる自衛権を補うものと解釈されてきました。したがって安保条約のなかに米軍支援の条項はありません。どこまでも従来の憲法解釈すなわち集団的自衛権は憲法上認められていないという個別自衛権の範囲におさめられていたはずです。

 ところが今年4月27日に改定された「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」は事前の集団的自衛権行使容認閣議決定に基づくものでした。そしてこのガイドラインに基づいて安保関連法案が提出されたのです。どう考えても安保条約改定が必要になると思うのですが。これも「解釈改定」ですか。だとしても、これは「違憲」でしょう。「合憲」の根拠を示してもらいたいものです。ぜひとも。

その(4)抑止力のリアリティ

 この安保法案が成立すれば日本の集団的自衛権行使の範囲、つまり自衛隊の任務範囲は日本周辺から南シナ海、インド洋、ペルシャ湾まで拡大します。これだけ広範囲の安全保障を担うのは世界最大の軍事同盟であるNATOをも凌ぐものになるでしょう。しかも後方支援や機雷掃海までもが任務になりますから活動の長期化は避けられません。さらに個別テロ戦争やサイバー攻撃にも対応するというのです。中国の「力による現状変更」と向き合いながら、北朝鮮のミサイル攻撃に備えながら、です。どうも安倍首相は、「存立危機事態」とか「重要影響事態」(それが何かは説明してくれませんが)が必ず一箇所に限定して発生すると想定しているようです。世界最大の軍事大国であるアメリカでさえ多方面戦略、とくに中東とアジアの二方面対応は能力を超えていると考えて「リバランス」に取り組んでいるにもかかわらずにです。戦力は分散します。旧日本軍は半径6000キロメートルに戦線を拡大し本土防衛余力がありませんでした。悲しくも当時の軍部の極めて疑わしいリアリティが想起されます。

さらに問われるべきは「対米公約」

 安倍首相は今年4月訪米し、27日に日米防衛協力の指針(ガイドライン)を18年ぶりに改定し、それに基づく安保関連法案の成立を「この夏までに必ず成立させる」と29日の米上下院合同会議演説で公約しました。昨年11月の総選挙では安保法制改定は公約の中にありませんでしたし、米議会演説の時点でもガイドライン改定の詳細は国内に伝わっていませんでした。もちろん法案の内容は国民に何も知らされていません。そして110時間にわたる国会審議の果てに「国民の理解が進んでいないことは事実」としながら強行可決しました。どう見ても有権者民意に対して不遜です。

 しかし安倍首相の米議会演説はアメリカで大歓迎されました。オバマ大統領も「歴史的演説で」あり「日米同盟は過去のどのときよりも強固になった」と大喜び。なぜか日本のメディアも大絶賛でしたね。もちろんアメリカにとってはいいことずくめでした。安倍首相はTPP合意に向けて強い決意を表明しましたから、オバマ大統領が苦戦している「大統領貿易促進権限法案」にとって追い風になりましたし、バイデン副大統領はこの問題について「日本側に責任があることが明白になった」と決めつけていました。

 さらにアメリカはこれ以降「軍縮」を加速させます。米陸軍省は7月9日、49万人の現有兵力を2018年までに45万人に減らす計画を発表します。これは第二次世界大戦参戦前1940年頃の水準です。2019年までにはさらに3万人減らすことが計画されています。ピークだったイラク・アフガン戦争当時の57万人から大幅な軍縮です。そして法案可決の15日即日、米国務省報道官は「同盟強化のための日本の努力を歓迎する」と述べました。内政問題に言及することは異例です。ましてや与党単独可決であり世論調査でも批判的であるにもかかわらずにです。さらにご丁寧に「ガイドライン改定を反映している」と合格点をくれました。アメリカの軍縮を日本の軍拡が埋め合わせする図式ですが、安保法案を支持している人々はこれで日本の安全がいっそう強化されると信じているのです。

誰が問うのか

 安倍内閣の支持率は不支持が支持を上回りました。安倍首相は将来の民意が支持するだろうと今の民意を気にしていないようです。でも「思うようにいかないな」と感じていることでしょう。ぼくは安倍さんの「思わぬ」方向に進むと感じています。

 まず、安倍首相の信念、尊敬するおじいさんの念願だった憲法改正は当面できないでしょう。安倍内閣は近回りをしたつもりで遠回りすることになります。「戦後70年談話」にも強い関心が集まるでしょう。「原発再稼働」、「辺野古問題」、「TPP問題」すべてに逆風が吹くことを覚悟しなければなりません。彼の信念が強いことは認めます。しかしそれ以上に日本国民の民主主義と平和に対する信念の強さを彼は認めなければなりません。

 問われたことを問い直す、問われていないことを問うのは誰でしょう。参議院議員にも期待したいですが、主体はまず主権者国民です。「理解が進んでいない」からではなく「理解が進んだ」からこそ反対する世論。国会前で各地で声をあげる若者たち。日本人は忘れやすいと油断してはいけません。国会は9月中旬まで開かれたままです。

 そして忘れてはならないことがあります。解釈改憲から法案可決までを支えた世論は「反中」「嫌韓」でした。この同調圧力が今、崩れていこうとしているように見えます。中国と韓国の熱狂的な(一部の)「反日」も抑制され始めています。中国と韓国の若者たちは国会前で夜通し抗議する日本の若者たちをどう感じるでしょうか。ぼくは思います。日中韓の若者たちの間に立てかけられた「歴史認識」の壁は、権力者の「謝罪」「反省」によって撤去されることはないのです。それは日本国民の民主主義と平和に対する固い「決意」とそれに対する中韓の若者たちの「信頼」と「共感」によってはじめて「未来志向」の扉が開かれるのだと。この連帯感こそが、それぞれのお互いの国民の「生命、自由および幸福追求の権利」に対する安全保障の基礎となることを、ぼくは信じています。

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