週間国際経済2015(14) 06/29~07/05

06/29
・日本経済新聞世論調査 安保法案理解進まず 「説明不充分」81% <1>
 「違憲」56% 「成立反対」57% 景気回復「実感せず」75% 内閣支持率47%に低下
20150629_01
・ギリシャ、銀行営業停止 預金流出防ぐ
・日本の家計金融資産、3月末に初の1700兆円台に 前年同期比5.2%増
 現預金は2.2%増の883兆円 株式20%増の100兆円

06/30
・米貿易権限法が成立 大統領署名(29日) TPP交渉環境整う
・アジア投資銀行。設立協定署名(北京29日)フィリピン、署名見送り
・東南アジア新車販売5月前年同月比9%減 25ヶ月連続のマイナス

07/01
・ギリシャ、IMF債務支払い延滞(先進国で初)15億ユーロ(約2000億円)
 土壇場のギリシャ政府新提案をEU拒否 約72億ユーロのEU支援も失効
 南欧飛び火はひとまず阻止 全回危機後に安全網整う 債務の8割は公的部門向け <2>
20150629_02
・「骨太の方針」(経済財政運営の基本方針)30日閣議で決定 <3>
 財政再建(18年度GDP比1%)目標は成長重視で 実質3%以上成長が必要
 年金、課税、控除など見直しも成長戦略は具体性欠く
 ⇒ポイント解説あります
20150629_03
・中ロがギリシャ接近 「地中海の要衝」安保問題に直結 米欧は警戒

07/02
・米キューバ54年ぶりに国交 大使館、20日再開で合意(1日)
・米新車販売、上半期4.4%増 10年ぶり高水準 ガソリン安で大型車伸びる
・韓国、輸出不振続く 1-6月5%減 ウォン高や中国景気鈍化響く <4>
 景気対策に22兆ウォン(3日閣議決定)
20150629_04

07/03
・米雇用22万人増(6月)失業率5.3%に改善 <5>
 ギリシャ危機の動向次第では金利上昇やドル高で逆風が強まる恐れも
20150629_05
・上海株3週間で24%下落 投資家の大半が個人、弱気に雪崩、底見えず <6>
20150629_06
・米石油掘削設備が増加、7ヶ月ぶり シェール投資抑制一巡
 技術革新で生産性も向上 シェール生産調整が短期間で終わる可能性も

07/04
・日本メコン地域(タイ・ベトナム・カンボジア・ミャンマー・ラオス)首脳会議
 共同文書で南シナ海「懸念に留意」「日本、インフラ支援」

07/05
・日本政府、高リスク投融資解禁 インフラ案件で国際協力銀行に
 信用力の低い(例えば地元政府保証の付かない)上下水道・発電事業などに
・中国、大手証券21社が株価下支えに2.4兆円 政府は新規株式公開制限
・ギリシャ、国民投票 6日朝に大勢判明

※PDFでもご覧いただけます
ico_pdf

 ポイント解説(14)  06/29~07/05

「骨太の方針」

「骨太の方針」って何?

 政府が閣議決定する「経済財政運営の基本方針」のことです。首相が議長を務める経済財政諮問会議で内容がまとめられます。2001年の小泉政権のときに始まりました(民主党政権では中断しましたが、今の安倍内閣で復活しました)。それまでは財務相を中心に各省庁が前年実績をベースに編成していましたが、政治主導のかけ声のもと首相官邸中心に転換したのです。来年度予算づくりの日程的関係から毎年6月頃に決定されます。今年は6月30日夕方に閣議決定されました。ぎりぎりですね。忙しかったのでしょうね。あまり決定したくなかったのかな。とくに今年は日本経済の最重要課題のひとつである財政再建の道筋を決めなければならない待ったなしの時期にきています。しかし今国会でも議論になっていません。「ドローン規制」のほうが目立つくらいです。

財政再建は経済成長による税収増で

 財政赤字を解決するには、いうまでもなく歳入増と歳出減が必要ですね。基礎的財政収支(過去の借金返済と新規借り入れを除いた収支、プライマリーバランスと呼んでいます)の2020年度黒字化は安倍政権の国際公約です。これを2018年度には、とりあえず赤字幅をGDPの1%程度にするというのが今回の「骨太の方針」の目標です。今年度のそれは3.3%になると試算されていますから、かなりハイペースの赤字削減ですね。

 歳入増は税収の伸びです.。2017年4月の消費税率10%への引き上げは前提として「実質GDP成長率2%程度、名目3%程度を上回る経済成長率の実現を目指す」と書かれています。つまり経済成長による自然税収増でまかなうというのです。歳出減は社会保障費の削減ですが、医療費の個人負担増や高所得者の年金給付見直しなどがあげられていますが、具体的な数値や時期は示されていません。

実質経済成長率が2%を上回る!

 驚きましたね。昨年度はマイナス成長でした。今年度もIMFやOECDの見通しでは0.7~0.9%です。来年度からは3%を大きく上回る途上国並みの高成長を見込んでいるようです。現在日本の潜在的成長率(生産要素をフル活用した成長率)は1.1%程度だとされていますから、その2倍です。自民党の稲田政調会長が「雨ごいみたいな話ではなく道筋を立てるのが責任だ」と反発したと報じられましたが、うなずけます。どうも、ツッコミどころ満載ですね。

 その1。不思議な話ですが、かりにその実質2%以上の成長が実現できても、内閣府試算によると2018年度の赤字幅の対GDP比は2.1%になります。黒字化が公約の2020年度も同じく1.6%の赤字が残ります。つまり目標と手段がかけ離れているのです。会社の営業計画ならば上司に叱り飛ばされているところです。

 その2。来年度から高成長が開始されたとすれば、当然金利が上昇しますから国債の元利金償還負担も増えます。つまり財政赤字は増えるのです。これも内閣の試算ですが、それは税収の伸びを上回ります。さらにこれだけの経済成長を支えるには日銀の異例の量的緩和が前提でしょうし、追加緩和も必要になるでしょう。ところがそれだけ経済成長が続けば日銀目標の「2%物価上昇」は達成されているはずですから、日銀は追加どころか「出口」(量的緩和の終了と購入した国債の売却)に取り組まねばならないはずです。このシナリオが予想されるだけで日本の国債価格は下落しますから長期金利は上昇し財政赤字は膨張します。

 その3。財政再建と経済成長がセットになったことで、経済成長率が予定通りいかない場合には日本の財政に対する不信が生まれます。日本国債の格付けが下がればリスク資産とみなされます。来年予定されているバーゼル委員会規制が現実になれば日本国債を自己資本にカウントできない邦銀は融資を減らさなければならなくなります。つまりどう考えてもそんな高成長が実現したら成長を持続できないのです。それがアベノミクスの重大な欠陥のひとつなのだと思います。

ところでどうやって成長するの?

 難しいこというな、成長すればいいじゃない、という意見もあるかもしれません。ぼくも成長戦略には興味があります。どれどれ、「アメリカと日本のベンチャー企業の連携強化」、まるでわかりません。「耕作放棄農地への課税強化による農地集約」、わからないではすみません。耕作放棄農地は政府の減反政策の結果であり、これに対する補助金を廃止するどころか課税を強化すれば農家はあわてて競争力を強めて2020年までに農産物輸出を1兆円にするだろう、と考えているのです。「海外と互角に競争する大学」、これもわからなかったのですが先日文科省大臣が「人文科学系、教育系学部を廃止しなさい」と国立大学に要請しました。意図はわかりましたが、意味がわかりません。

 好き嫌いを言ってごめんなさい。ぼくは安倍政権のキャッチコピーのセンスが不愉快です。例えば「すべての女性が輝く社会」、だから配偶者控除の見直し,
公共トイレをきれいにする。「世界で一番企業が活動しやすい国」、だから派遣労働法改正、法人税率引き下げ。

 もうひとつ言わせてください。蛇足ですが、集団的自衛権行使容認に基づく安保法制はいうまでもなく財政上の「軍拡」です。あれだけ広範囲であれだけたくさんの事態に対応するためには今の防衛予算約5兆円では足りません。歳出面で「軍拡」と「社会保障」はトレードオフです。どちらかを増やせばどちらかを減らさないといけません。暴論でしょうか。今の国会を解散して、「軍拡」か「社会保障」かの争点で総選挙をすればどうでしょうか。安倍政権にとって初めて「集団的自衛権行使容認」を公約にして国民の理解を得るためのチャンスが生まれます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. Jisung Kim(ベルリン自由大学ドイツ文献学博士課程) より:

    安倍政権の安保法案について、その実態をより明らかにするために「戦争法案」と言い換えることで啓蒙しようとする市民の動きがあると聞いたことがありますが、(私としては)残念ながら、すでに戦争をするーー「覚悟」ではなくーー開き直りを決めているタカ派にとっては、もはや効き目がないのかもしれません。一方で「軍拡」という経済政策の観点からの表現は、いわゆるイデオロギーの色合いが薄く、より広い層に訴えるものがあるでしょうし、日本が現実に軍隊を持っていることを追認せざるをえない以上、より実態に即しているように感じました。
    財布に繋がる問題が必ずしも普遍的であるというわけではありませんが、ヨーロッパの人たちに平和憲法をめぐるきわめて日本的なジレンマを説明することに厄介さを感じていたので、軍拡と社会保障のトレードオフという図式は、少なくとも彼らにとっても自国との類推がし易いという限りで、相対的に普遍性があると思います。(もちろんそこで捨象されてしまう日本特殊的な問題もあるかもしれませんが)
    とても参考になりました。

    • 金俊行 より:

      財政上の国防費と社会保障費の関係には特にヨーロッパ有権者は常に関心を持っています。日本は財政赤字の対GDP比が世界最大でかつ最も高齢化が進行している国です。潜在的成長率が芳しくないのも労働力の投下余力が小さいからです。前回の総選挙でも集団的自衛権行使容認は争点になりませんでした。消費税率引き上げ延期つまり財政再建の先送りです。そこに「軍拡」です。これは有権者に問い直すべきでしょう。国内問題を第三国から見て同感できるイシューに置き換えて考えることは建設的議論に資することを学びました。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

以下の計算式に適切な数字を入力後、コメントを送信してください *