週間国際経済2015(13) 06/22~06/28

06/22
・ギリシャ、新改革案提示 ユーロ圏首脳会議で協議へ
・安倍首相が韓国外相と会談 早期の日韓首脳会談に意欲
・元内閣法制局長官2氏 安保法制を批判 衆院特別委
 「従来の政府見解を明らかに逸脱」「違憲であり速やかに撤回すべき」

06/23
・ユーロ圏首脳会議(ブリュッセル、22日)ギリシャ支援「週内決着」
 EU大統領「新提案は前向き」 ドイツ首相「集中した作業が必要」
・日韓国交50年 安倍首相「新時代築く」朴大統領「歴史の重荷下ろそう」
 記念式典出席見送りから直前になって双方とも出席
・東アジア債権残高1015兆円(3月末)前年同月末比8%増 <1>
 アジア開発銀行発表 日本を除く9カ国の現地通貨建て債券発行 6割強が中国
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06/24
・米中戦略・経済対話始まる(ワシントン、23日)南シナ海巡り応酬
 米「開かれた交通路を」 中「航行の自由を支持」 埋め立ては平行線
 バイデン副大統領「中国の台頭を恐れていない。責任ある台頭を求めている」
・貿易権限法案、成立へ前進 米上院が討議打ち切り 24日にも再可決の見通し
・伊藤忠、シェールガス撤退 出資米会社の全株式売却 減損損失1000億円

06/25
・大統領貿易促進権限法案(TPA)米上院が再可決(24日)TPP来月合意へ道
・中国、融資規制を緩和 預金残高の75%超、可能に
 景気刺激とともに米国の圧力を交わす狙い

06/26
・米中戦略対話が閉幕 9月首脳会談控え協調演出 投資協定を「最優先」<2>
 中国、為替介入を抑制・証券外資規制も緩和 南シナ海は対立解けず
 ⇒ポイント解説あります
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・TPP関税撤廃95%超 TPA可決追い風 日米最終交渉へ <3>
 自由化率は過去最高 これまでの2国間EPAではいずれも90%未満
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・米下院、貿易調整支援法(TAA)可決(25日)TPP妥結へ条件整う
 ⇒ポイント解説あります
・韓国、景気対策1.6兆円 輸出減・MERSに危機感
・日本消費支出5月前年同月比4.8%増 14ヶ月ぶり増加 消費者物価は0.1%上昇
 前年同月(2014年5月)は消費税率引き上げ直後で消費支出はマイナス8%

06/27
・中国、100%民間資本の銀行解禁 中小企業・農村への融資促す
・自民党勉強会「マスコミ広告で圧力を」「沖縄2紙つぶさないと」 <4>
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・ギリシャに独仏首相が新提案 チプラス首相、板挟み 銀行の預金流出続く
・ギリシャ、EU提案受け入れについて国民投票へ(来月5日) 首相表明

06/28
・ギリシャ支援延長拒否 EU、国民投票に反対 ギリシャに最後通告 <5>
 30日期限、債務不履行(デフォルト)リスク高まる チプラス政権の対応焦点
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・中国が追加利下げ 0.25%、昨年11月以降4回目 上海株急落に危機感

※PDFでもご覧いただけます
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ポイント解説 (13)

1.アメリカ議会とTPP

米下院、ぎりぎりの攻防

 TPP妥結の前提となる大統領貿易促進権限法案(TPA)が米上院で可決されたのが5月22日、その後下院では集中的な議論の末TPAは可決したものの貿易調整支援法案(TAA)が否決されたために、あらためて上下院で再採決という事態になりました。24日にTPAが上院で再可決、25日に下院でTAAが可決し、29日にオバマ大統領が両法案に署名してようやくTPP関連法案が成立しました。どうしてこんなに難航したのでしょうか。

TPAとTAA

 TPA(大統領貿易促進権限法案:trade promotion authority)とは米議会が持つ通商交渉の権限を大統領に一任する法案です。これがなければTPP交渉が参加国間で合意されても、米議会がこの批准案に対して個別の条文ごとに修正を求めることが可能になります。ですから交渉参加国は米議会でTPA法案が成立していないとTPPに合意することが難しくなります。

 一方TAA(貿易調整支援法:trade adjustment assistance)というのは貿易自由化のために失業した労働者を公的に支援する、たとえば求職や転居費用などを補償する法案です。じつは与党の民主党がこの法案を重視し、オバマ大統領もこれに配慮してTAA法案と一体でなければTPA法案に署名しないと約束していたのです。

国際分業の利益には様々な前提がある

 国際貿易がすべての国民経済にとって有益であることは経済学者の「唯一の合意」といわれています。しかし自由貿易が最善の方法かどうかは経済学者の「最大の対立点」のひとつだといえるでしょう。「国際分業の利益」には様々な前提があります。おおもとのリカードの比較優位説では資本の移動がないものとされていました。貿易論の基礎であるヘクシャー=オリーンの定理にも多くの仮定があります。重要なもののひとつは、すべての国の生産能力に差がないことです。もうひとつ資本とは労働の産業間移動がスムーズであることです。リアルではない、ですよね。どう考えても自由貿易は敗者(失業と倒産)を生み出します。ですから政策的には保護すべき産業は保護する、あるいは敗者を公的に救済することが貿易自由化の前提になるのだとぼくは思います。

無風の日本国会

 ですからTPP交渉では圧倒的に優位なアメリカでも、貿易自由化による負け組を救済することが前提になるのです。韓国がアメリカとFTAを結んだときも約2兆3000億円の農業支援予算を組んで損失補償や廃業プログラム支援などの公約を掲げてかなり時間をかけて国民を説得しようとしていました。

 さて、アメリカがTPP関連法案を成立させたということはTPP交渉が加速するということですね。今国会は過去最長の延長国会です。しかしTPPによる負け組救済の議論はまったく耳に入ってきません。これは異常なことなのです。TPP交渉における「聖域5項目」は安倍政権の公約でした。そのすべてがアメリカに対してなし崩し的に譲歩していることが問題になっていません。それどころか従来の減反政策による補償制度も打ち切られました。反対世論は反対運動は?かつて「農水族」と呼ばれた自民党大物議員はすべて干されています。最大の利益代表であったJA全中は解体されました。多くの酪農家は希望を失って廃業(倒産ではなく)していっています。沖縄農家の70%はサトウキビ農園を営んでいます。これも自由化されるのに一切補償の話は出てきません。
これは異常なことなのです。

2.米中戦略経済対話、なんでも話し合える関係

Strategic and Economic Dialogue

 アメリカと中国が23日と24日にわたってワシントンで戦略経済対話を開催しました。聞き慣れない名称ですね、「対話(dialogue)」なんです。conferenceでもtalksでもありません。両政府がそれぞれの懸案を対話して、別に共同声明を出すわけでもありません。2006年12月に始まって以降、年2回ワシントンと北京で交互に開催されています。こんな関係はアメリカと中国以外に見当たりません。もともとはアメリカの対中貿易赤字や人民元の為替介入などが懸案事項でした。しかしこの5年間で中国のGDP(名目、ドルベース)は2倍に膨れあがり、その間アメリカのGDPは2割増えただけです。こうした力関係に伴って両政府の懸案、つまり対話すべき内容は広がっていきました。

南シナ海埋め立て問題

 日本の報道では「南シナ海問題」が大きく報じられていました。「応酬」、「対立解けず」という見出しが躍ります。たしかに対話はここから始められました。バイデン米副大統領はこう切り出しました、「我々は中国の台頭を恐れていない。責任ある台頭を求めている」。ぼくはずっとモヤモヤしていたものが晴れた感じでした。モヤモヤとは、安倍内閣の集団的自衛権行使容認やこれを前提にした「日米防衛協力のための指針(いわゆるガイドライン)」改定という動きに対して中国が気味が悪いほど冷静だったことです。戦後70年を前に「日本軍国主義の復活」とか騒いでもおかしくない国なのに。ましてやワシントンで対話が開催されているまったく同じ日に、日本の海上自衛隊はフィリピン海軍とその南シナ海で初めての合同演習を行っていたのです。それでも中国当局は「あまり騒がないように」と釘を刺したにとどまりました。ああそうなんだ。アメリカは中国を「仮想的」としていない、米中軍事衝突はなんとしても避ける、そうしたコンセンサスが確立されていたんだ、そうモヤモヤが晴れたわけです。

 たしかにアメリカは南シナ海埋め立て中止を要求していました。誰に?「すべての領有権主張国」にです。じつは埋め立てそのものはベトナムとフィリピンが先行していました。中国名指しの発言はケリー国務長官の「速度と規模を懸念している」(5月16日)です。そこで中国は6月16日に突然「埋め立て完了」を発表したのです。「速度と規模」を止めたということです。ですから「対話」では埋め立ては議題にならず、アメリカは「開かれた交通路を」求め、中国が「航行の自由を支持」しておしまいでした。ぼくには「応酬」にも「対立解けず」にも見えません。

米中投資協定を「最優先」

 対話には珍しく、経済分野の共同成果文書が発表され、2国間投資協定締結が最優先事項だと明記されました。原則的にすべての分野を対象とし例外分野を「ネガティブリスト」に示す、中国は懸案だった証券分野での外資参入規制を緩和すると表明、米銀が上海の経済特区に進出しやすくすることなどを列挙、これらは予想外の進み方です。日本の金融機関はさぞかし「やられた」と悔しがっていることでしょう。こんな美味しい話を2国間だけで進めるなんて。

 長年の懸案だった「人民元問題」では、「中国の為替介入は市場混乱時に限定」とされました。なんのことはありません。現状は問題なしとされたのです。現在、中国への資金流入は落ち着きアメリカは利上げが予定されています。中国当局が人民元売り介入をする必要性は大幅に減っています。それどころかアメリカは人民元のIMF準備資産(SDR)への採用に言及しています。2010年のIMF改革で中国の出資比率増加に合意したときにはアメリカ議会だけが反対していたのです。

 これ以外に目立ったことは環境問題です。温室効果ガス削減に向けて米中が協力することがあらためて合意されました。今年末にはパリでCOP21(国連気候変動条約会議)が開かれます。世界最大の二酸化炭素排出国である米中がそこでも共同歩調を演出するのでしょう。

9月米中首脳会談に向けて

 焦点は習近平中国国家主席の訪米です。アメリカでは次期大統領選挙が始動します。オバマ大統領が中国に対して新たな対立点を持ち出すとは思えません。むしろオバマ政権の「アジア重視戦略」とは何だったのか、ある程度の具体的成果を示さねばならないことでしょう。

 米中は大国ですから緊張関係にあることは当然です。しかし彼らは「なんでも話し合える」対話関係を持っています。これこそ安全保障であり互いに経済的実利を得ることができる関係です。つまり緊張感を持って相互利益を築いているわけです。「軍事力こそ抑止力」という発想は過去のものになっています。「なにも話し合えない」日中関係が心配でなりません。

図書案内

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』矢部宏治著、集英社インターナショナル

 最近話題になっていることで知りたいことをまとめて読みたいなという人に。

1.集団的自衛権行使容認が「合憲」だとする根拠として今よく「砂川裁判」があげられています。そもそも「砂川事件」とはなんであり、その判決はどんな経緯と内容なのでしょう。

2.作家の百田尚樹さんが自民党の勉強会で「沖縄のふたつの新聞はつぶさなあかん」、「普天間を選んで住んだのは誰やねん」と発言したとかで話題沸騰です。どこが問題なんでしょう。

3.政府は2030年の望ましい電源構成案を決定し、そこでは原発比率は20%以上になっています。ちなみに2013年度は1%でしたが電力不足は大きな問題にはなりませんでした。でも原発は再稼働し、稼働40年以上の老朽原発の稼働延長も盛り込まれました。地震も火山も不安です。

 著者はどの問題についても専門家ではありません。素朴な疑問から事実関係を積み重ねて「謎解き」を試みています。その結論部分には反論も多いでしょう。でも事実関係をわかりやすく読みたいとこだけ読むには最適な本のひとつです。

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