週間国際経済2022(25) No.318 08/01~08/14

今週の時事雑感 08/01~08/14

世界は政治体制ではなく経済格差で分断されている

ウクライナ「開戦」の教訓

ロシアのウクライナ侵攻から半年が経過した。なるほど歴史が教えるように、戦争はひとたび始まれば終わりの出口が見えなくなり、また戦禍は戦場に限定されない。戦線の優勢劣勢に関する情報は溢れるほどだが、「なぜ開戦は回避できなかったのか」という議論は意図的に回避されているのか、いっさい盛り上がる様子がない。そうしたなかで今また、台湾情勢が緊迫している。

巷に「拡大抑止」論(自国のみならず他国への武力行使にも反撃する意思を示すことによる戦争抑止効果)なるものが徘徊しているが、その有効性を検証するためにもウクライナ開戦の教訓を熟議することが不可欠なはずだが。それでもアメリカの対中瀬戸際外交に正義の装いが許されるのは、世界が「民主主義と権威主義の戦い」のなかにあるという啓蒙主義的妄想ゆえである(昨年12月の「民主主義サミット」対する評論⇒ポイント解説№294参照)。

トランプ政権の「自国第一主義」によってアメリカとその同盟国との関係は深く傷んだ。トランプ支持者の連邦議会襲撃に象徴されるようにアメリカの民主主義もまた深く傷んだ。バイデン政権は同盟関係の修復とトランプ政治との決別を目指し、「民主主義と権威主義(専制主義)との戦い」を外交の基本理念とした。

そこでバイデン外交は、硬直化した。交渉、妥協、譲歩という選択肢を失った外交は外交たりえない。世界が政治体制によって分断され対立しているかのように見えるのは、アメリカ社会の分断と対立の投影であり、しかし実像ではない。

置き去りにされた新興国

資源国ウクライナとロシアの戦争によって世界の物流が停滞し食糧危機に見舞われるなかで6月12日、WTO(世界貿易機関)閣僚会議が開幕した。会議初日に56ヵ国・地域がウクライナ支援連帯の共同声明を発表した。しかしこれに賛同したのはWTO加盟国の3分の1程度にすぎなかった。残る3分の2は、はたして権威主義国なのだろうか。

7月16日、バリ島で20ヵ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)が共同声明を出すこともできずに閉幕した。ここでもロシアのウクライナ侵攻への対応で意見が対立した。会議最大の課題は資源・食料価格の高騰と新興国の債務問題だったが、日米欧はこれをロシアのウクライナ侵攻が原因だとし、新興国は米欧の金融引締め(利上げ)のよる負担増であるとした。この意見対立は、政治体制による対立ではない。

コロナ・パンデミック禍中、民主的な先進主要国は不足するワクチンを囲い込んだ。多くの新興国では脆弱な医療体制がたちまち崩壊した。観光資源に依存する新興国経済も、労働集約型産業に依存する新興国経済も激しく落ち込み、財政は著しく悪化した。

アメリカ経済が、少し遅れてEU経済がコロナ前水準に回復しても、多くの新興国経済は危機的状況に取り残されたままだった。そこをウクライナ戦争による資源・食料価格高騰に襲われた。

対ロシア経済制裁で不足するエネルギー、食料および肥料を民主的な先進主要国が優先的に確保した。取りも直さずそれは、それまで新興国の取り分であったものが取り上げられたということを意味している。

アメリカの利上げによる新興国債務膨張

コロナ禍で取り残され、資源を取り上げられた多くの新興国経済。そこにアメリカの利上げ加速による借金返済負担の急増が重なる。

国際金融協会によると、新興国からの資金流出額は7月に105億ドル(約1兆3700億円)に達し、この5ヶ月間の総流出額は380億ドルを超えた。アメリカの金融緩和で流入した資金が、アメリカの利上げで逆流している。

新興国からの資金流出は新興国通貨売り・ドル買いだから、新興国通貨の対ドル為替レートは下落する。新興国債務の多くはドル建であり、ドル高・新興国通貨安は為替レート変動分、新興国債務を膨張させる。新興国の債務残高はウクライナ戦争が始まり、アメリカの利上げが始まった22年3月に98兆6000億ドルに達し、これはリーマン危機直後の4倍にあたる。その3月から5ヶ月連続して(2005年以来最長期間)新興国からの資金流出は続き、アメリカの利上げは繰り返されているのだ。

資源価格高騰のなかでの通貨安は、輸入インフレによって物価高をさらに加速させる。新興国は自国通貨安を食い止めるために利上げに踏み切り、それがコロナ禍からの景気回復の足を引っ張る。いくら利上げしてもアメリカの利上げにははるかに追いつかない。そこで保有ドル(外貨準備)でドル売り・自国通貨買いの為替介入を繰り返すのだが、その外貨準備が枯渇すればスリランカのように経済が破綻する。これがまた投資家による新興国からの資金引き上げを促し、破綻リスクは連鎖する。

こうした新興国債務膨張に対して民主的な先進主要国は、中国による途上国融資の不透明性と「債務の罠」を繰り返し指摘するのだが、その民主的な先進主要国の異例の金融緩和による新興国資金「流入」は、紛れもなく新興国「債務」なのだ。この債権債務は実体が見えず、アメリカの金融政策の時の都合によって一気に貸し付けられ、都合によって直ちに回収される。しかし民主的な先進主要国は、自身のカジノの帰結を不問にしている。

それでも民主主義は権威主義と戦うのか

民主的な先進主要国が「民主的」であるのも「先進国」であるのも、歴史的に植民地・旧植民地との不等価交換のよる超過利潤を前提としてきた。一方、新興国に権威主義的傾向が強いことにも歴史的背景がある。民主的な先進主要国がかつて帝国主義列強であったころ、地球は列強の力に応じて領土的に分割された。この分割線に応じて独立した新興国は、国内にも近隣とも紛争の種が尽きない。いきおい政治体制は権威主義的とならざるを得ない。

また戦後東西冷戦のもとでは、民主的な先進主要国は「反共」でさえあれば新興国の独裁政権を支援し、新興国の民主化運動を抑圧してきた。その歴史は昔話ではない。まさに今日本でも、「勝共」でさえあればその勢力のカルト的教義がいかに反社会的であれ「自由民主」は彼らと盟友関係を結び、その後も途切れることなく互いの利害が一致していたのだ。

その関係が、貧困を生んでいる、民主主義を蝕んでいる。そんな民主的な先進主要国は、いったいどのような民主主義を自負し、権威主義と戦うというのだろうか。

世界は政治体制ではなく経済格差拡大で分断されている。アメリカはイスラエルの「力による現状変更」を容認し、はては称賛までしている。アフリカの希少資源争奪を巡る内戦には大量の武器を投下し、その希少資源を独占的に獲得している。台湾を「民主的な先進主要国サプライチェーン」に取り込むためには緊張激化もいとわない。民主主義を軸とした関係強化を東南アジアに呼びかけても、その先にはトランプ政治の復活が透けて見える。

なによりも、民主主義的な先進主要国はコロナ禍の危機においても資源不足危機においても新興国を置き去りにし、自分勝手で規制なき金融政策によって新興国債務を膨らませ、その結果、新興国権威主義に対する民主化の道をより険しいものにしている。

民主的な先進主要国は、権威主義との戦いの前に、自国の民主主義の劣化と戦うべきではないだろうか。また、たとえ権威主義的であろうと新興国経済とも協調し、世界の大部分である彼らを国際供給網の再構築から疎外することがあってはならない。

経済格差拡大による世界の分断克服、この戦いを棚に上げて、世界を政治体制二元論で語るその無責任な顔に正義の仮面が装われるのは、それを見るに耐えがたいことなのだ。

日誌資料

  1. 08/01

    ・石炭消費量、来年に最高 IEA予測 ガス高騰で代替需要
  2. 08/02

    ・最低賃金31円上げ961円 全国平均 物価高で過去最大幅
    ・米、ウクライナに追加支援 720億円、ロケット弾など
  3. 08/03

    ・米、労働需給和らぐ 6月求人1069万件 3ヶ月連続で減
    ・米利上げ「0.5%が妥当」 シカゴ連銀総裁 来月上げ幅圧縮支持
  4. 08/04

    ・ペロス米下院議長25年ぶり訪台「米台は団結」 蔡総裁と会談 <1>
    中国、島囲み軍事演習 対抗措置はや強化 台湾経済に影 果物や魚類の輸入停止
    各国指導者に訪台促す ペロシ氏声明「中国は阻めず」
    ・原油小幅増産で合意 OPECプラス 9月10万バレル 消費国に配慮
  5. 08/05

    ・英中銀、0.5%利上げ 幅2倍 国債売却、来月にも
    ・岸首相、ペロシ氏と面会 中国演習「重大な問題」 <2>
    ・実質賃金3ヶ月連続減 6月0.4%減 ボーナス増も物価高が影 <3>
  6. 08/06

    ・NY原油下落 一時87ドル台 米景気減速感 需要鈍る <4>
    ・米軍幹部との対話停止 ペロシ氏訪台 中国が対抗措置 「台湾封鎖」演習続く
    ・米就業者52.8万人増 7月、雇用なお過熱 失業率3.5%に低下
  7. 08/08

    ・経常黒字8年ぶり低水準 上期63%減 資源高・円安響く
    ・FRB理事 物価高鈍るまで0.75%幅 利上げペース減速に慎重
  8. 08/09

    ・ソフトバンクG 赤字最大3.1兆円 4~6月 ハイテク株安響く
  9. 08/10

    ・1都3県 初の人口減 進む少子化 東京へ流入鈍る 全国、最大の61万人減
    ・企業物価8.6%上昇 7月、17ヶ月連続前年超え
    ・仮想通貨規制 米国でも 発行者に銀行並み基準 現金や短期国債で裏付け
    ・中国消費者物価2.7%上昇 7月、伸び率2年ぶり高さ
    ・米、半導体補助金法が成立 大統領署名 生産・研究に7兆円
    ・メキシコ、インフレ率8.15% 7月、22年ぶり高水準
  10. 08/11

    ・国の借金 初の1人1000万円 6月末 総額最大の1255兆円
    ・タイ、3年半ぶり利上げ 東南アで相次ぐ インフレ抑制優先 <5>
  11. 08/12

    ・米ガソリン価格下落 5ヶ月ぶり低水準 消費抑制で需要減少
  12. 08/13

    ・米、再生エネ推進・巨大IT課税強化法案成立へ 下院で可決
    ・ロシアGDP、4%減 4~6月 制裁響き、5四半期ぶり
    ・米台貿易促進へ工程表 バイデン政権 中国依存是正後押し
    ・中国、複合不況の足音 不動産の経営難波及 <6>
    銀行に不良債権 地方財政も悪化
  13. 08/14

    ・スパイ活動法違反 トランプ氏に浮上 FBI、11の機密文書押収
    ・旧統一教会と接点106人 全国会議員アンケート 自民8割の82人
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