週間国際経済2018(10) No.137 04/02~04/08

今週のポイント解説(10) 04/02~04/08

ぼくが安倍さんなら、今トランプさんと会いたくない

1.心中お察し申し上げます

さぞかし、憂鬱なことだろう。安倍首相は今日(4月17日)からアメリカに行ってトランプさんと首脳会談をする。後悔しても始まらないが、あれは3月9日のことだった。前日トランプさんは、いきなり金正恩さんと5月に首脳会談をすると言い出した。安倍さんは驚いてトランプさんに電話した。そして4月初旬に会おうと約束してしまった。

安倍さんの足元では、森友関連公文書改ざんで慌ただしくなっていたし、北朝鮮に対する「最大限の圧力」は安倍さんの看板のひとつだ。鉄鋼輸入制限には日本が含まれている。ここは「ドナルド・シンゾー」関係で失地を挽回しなくてはならない。

前々回のポイント解説は、こう締めくくった。「何も見えていないのか」⇒ポイント解説№135。いやでも、見えてくる。今トランプさんが安倍さんと仲良くして得をすることは何もない。トランプさんにとって、得をしない人は友達ではない。フリンさんもバノンさんも、同士的な友達だったが、得をすることがなくなれば追い出した。

会いたくないが、キャンセル料はべらぼうに高くつく。世界中の首脳がトランプさんと距離を置いていたのに、安倍さんはトランプさんと「100%ともにある」ことを売りにしていた。だからこそ、キツい。トランプ「犬笛」に応じても、ましてや逆らっても、安倍さんの立場は悪くなる。

さぞかし憂鬱なことだろう。

2.米中「貿易戦争」は尻すぼみ?

習近平さんは、国際会議の使い方が巧妙だ。4月10日、中国海南省で開催されたアジアフォーラムで講演し、金融や自動車の外資規制を緩和し、知的財産保護を強化すると、対外開放姿勢を強調した。その内容の大半は昨年から言っていることなのだが、国際的にはトランプさんに対する「大人の対応」に映った。

世界は、アメリカがどうの中国がどうのではなく、両者の「貿易戦争」を恐れている。世界貿易において中国は、輸出第1位、輸入第2位。その中国がトランプ保護主義を批判するわけでもなく、「自由貿易の守護者」(4月11日付日本経済新聞)を演じて見せる。

実際に、中国の3月の輸出は前年同月より3%減って、輸入は14%増え、単月とはいえ貿易赤字だったから説得力がないわけでもない。

これに対してトランプさんは、さっそくツイッターで「習氏の寛大な言葉にとても感謝している」と評価した。対中制裁は身内からも批判が高まっている。今回の習近平さんの方針は「譲歩だ」、制裁の「効果だ」と威張ることもできるのに、「感謝」した。

世界には、習近平さんが差し出した「落としどころ」にトランプさんが乗ろうとしているように見える。みんな、知っている。トランプ政権には外交通商スタッフが決定的に不足している。習近平政権はトランプ保護主義への対策を綿密に準備してきた。ゲームの主導権は、見えやすい。

3.振り上げたコブシは日本に向かう

かつてトランプさんは「日本はmurder」、「安倍はkiller」だと叫んでいた。日本からの輸出によって失業者が増えているという「犬笛」だった。

3月23日の鉄鋼輸入制限措置発動の前日、トランプさんはこう言った、「安倍首相らは『こんなに長い間、アメリカをうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」。4月12日のツイッターでは、「日本は何年も貿易でアメリカに打撃を与えてきた」と日本名指して批判した。これは「習氏に感謝」直後の「犬笛」だ。

その4月12日、トランプさんはTPP復帰に向けた条件を検討するように指示した。これは、ホワイトハウスで農業が盛んな州の議員や知事と会談した席でのことだった。アメリカ抜きのTPP11はすでに調印されている。これが発効すれば、カナダやオーストラリアの牛肉や農産物の関税は大幅に下がる(牛肉で9%、アメリカ産には38.5%)。

日本政府は、アメリカのTPP復帰を求めている。しかし一度調印した協定内容を大幅に変えるとなると大混乱になる。それでもトランプさんは、「かなりいい協定になれば前向きに考える」といっている。

それが嫌なら日米2国間FTA交渉だ、というのが今回のトランプ・ディールだ。TPP11が発効すればアメリカの農産物は競争力を失い、中間選挙大票田の反発を受ける。かといって「TPP離脱」は製造業労働者支持層に対する「公約」だった。

本来、困るのはトランプさんのはずだが、その二択を日米首脳会談の直前に、つまり安倍さんに突きつけたのだ。

その翌日4月13日、米財務省は為替報告書を公表し、日本を引き続き「監視リスト」に指定した。これは①対米貿易黒字額、②経常黒字の対GDP比、③一方的な為替介入の3条件に該当すれば、経済制裁の検討対象になるという代物だ。

日本は①と②に該当してる。残るは「円安」が意図的に誘導されたものかどうかにかかっている。憂うべきは、日銀の大規模な金融緩和政策が俎上にあがることだ。そうなれば、アベノミクスそのものが批判の対象になりかねない。

4.そしてシリアにミサイルを撃ち込んだ

まだ想定外のことが、安倍さん訪米直前に起きる。同じ4月13日、トランプさんはシリアに向けてミサイルを105発撃ち込んだ。アサド政権が反対勢力に化学兵器を使うという「怪物がやる犯罪」をやらかしたというのが、その理由だ。本当に化学兵器を使ったのかどうか、わからない。ミサイル攻撃で破壊されたのはは化学兵器関連施設だったし、化学兵器禁止機関(2013年ノーベル平和賞受賞)がシリア入りする直前の攻撃だったからだ。

これでロシアとの対立は新局面に入ったと報じられた。ロシアはアサド政権を支援しているからだ。米ロ関係がこの先どう緊張していくのかは、わからない。わかることは、これがトランプさんにとって選挙運動になっているということだ。

ロシア疑惑はフェイクニュースだ。だから自分はロシアとの関係が悪くなっても気にしない、と言いたいのだろう。以前、アサド政権が化学兵器を使ったとき、オバマさんは何もできなかった。自分はそんな腰抜けではない。そんな「犬笛」が聞こえる。

さあ、困ったのは安倍さんだ。安倍さんとプーチンさんは「シンゾー・ウラジミール」の関係だ(もっともプーチンさんは「シンゾー」なんて呼ばないが)。プーチンさんの愛犬(秋田犬)も安倍さんのプレゼントだ。北方領土問題、経済協力問題で、プーチンさんとの友人関係をこじらせたくない。5月には、なんと21回目の日ロ首脳会談が予定されている。

「板ばさみ」だ。トランプさんが、この問題を持ち出さないことを祈るしかない。

5.そもそも北朝鮮問題を話し合うための訪米だ

なぜかトランプさんは、金正恩さんとの首脳会談にとても自信ありげだ。「うまくいく」、「大成功する」と、みずからやたらとハードルを上げている。

おおかたの見方は、こうだ。「非核化」(それがどのような内容であれ)が実現すればノーベル平和賞ものの実績だ(オバマさんと肩を並べる)。会談が決裂して「武力行使」(それがどのようなレベルであれ)、強いリーダーの本気度を見せつけることができる。つまり、トランプさんは「どちらでも」損はないと踏んでいるのだ(世界にとっては、損得の差は甚だしいのだが)。

そこへ安倍さんは「最大限の圧力」を確認しにいくという。「拉致問題も忘れずに」と注文を付けにいくという。朝鮮情勢が激変しているのにもかかわらず、これまで通りの対応だ。

さて、トランプさんは聞く耳を持っているのだろうか。前々回のブログでは、朝鮮問題と通商問題がリンクされていることを指摘したばかりだ⇒ポイント解説№135。今回の首脳会談で、北朝鮮問題では一致したが、貿易摩擦問題には触れられなかった、なんて都合のいいことになるとはとても思えない。

「ドナルド・シンゾー」関係は、通商問題を持ち込まなかったから「100%ともにある」と言うことができたのだ。それはペンスさん(副大統領)と麻生さんの「日米経済対話」でやってもらいましょう、だったのだ。これが、まったく進んでいない。

通商問題では、中国とも韓国とも、譲るところは譲り、見直すところは見直している。しかし日米通商交渉だけは、なにも具体的な進展がない。トランプさんは「そんな日々は終わりだ」とツイートしている。

6.なぜ、何も見えていないのか

とても驚いたし、やはり理解できないことがある。3月下旬にオバマさんが来日して、安倍さんはまたいっしょにお寿司を食べた。オバマさんは、公式な来日ではない。これがトランプさんの機嫌を損ねることは目に見えている。それでも安倍さんは「バラク・シンゾー」関係を内向けに発信したがる。なぜ、誰も止めなかったのだろう。

安倍さんの今回の訪米がとても憂鬱なものになっている理由を、ふたつだけ指摘しよう。ひとつは、外交政策における「日米100%」戦略だ。このため近隣周辺国との外交パイプが詰まっている。中国とも韓国とも、もちろん北朝鮮とも。これは、いざ日米でこじれたとき、孤立する戦略だった。

もうひとつは、「忖度」政治だ。少し前のものだが3月18日付日本経済新聞に「だれが政策をつくるのか」という記事があった。ここで、政策の専門性が軽視され「政治化」しているという指摘があった。

今、行政組織のゆがみがたいへんなことになっていることが、連日ニュースになっている。財務省も厚労省も文科省も、そして防衛省も。「改ざん」、「隠蔽」だらけになっている。官邸も、「総理のご意向」、「首相案件」。こうした「安倍1強」の歪みは、国内だけではなく国際関係においても不利益を国民に与えている、その結果、安倍さんにとって憂鬱な訪米となっているのだ。

日米ともに支持率30%台の首脳会談、なかなか観られるものではない。トランプさんにはスタッフがいない。どんどんクビにしてしまったし、どんどん自ら辞めていっているからだ。安倍さんのスタッフは、萎縮し、混乱している。本来トップ会談というものは、裏方が全部準備して、そのうえの演出なのだが、今回は例外だろう。

今期関連科目受講生の皆さん。明日からこの問題のニュースが続きます。ぼくが心配しすぎなのか、またはうがち過ぎなのか。ともあれ、今回ポイント解説の内容を少し頭に残しながら、ニュースを見て新聞を読んでみてください。そしてまた、教室で会いましょう。

日誌資料

  1. 04/02

    ・中国、対米報復関税を発動(1日)輸入制限に対抗 128品目、最大28% <1>
    ・米韓軍事演習開始(1日) 事実上縮小、北朝鮮に配慮
    ・訪日客の恩恵広がる 関西で消費1兆円、沖縄8.5倍 輸出・生産に好循環<2>
    投資もプラス 定住促す効果も 人口減の影響緩和
  2. 04/03

    ・トランプ氏「口撃」アマゾン株8.4%下落 「不当に安い配達料」批判
    ・NY株458ドル下落 米中貿易摩擦を懸念
    ・日銀、保有ETF(上場投資信託)24兆円 5年前の12倍、日本株全体の4%
  3. 04/04

    ・米、対中制裁1300品目公表(3日)知財侵害で原案 産業ロボットなど <3>
    ・韓国企業昨年28%増益で最高 外需主導、半導体や化学好調 雇用には直結せず
    ・アマゾン・ジャパン、配送料上げ 最大1.5倍 人手不足消費者に転嫁
    ・仮想通貨業者、淘汰進む マネックス、コインチェック買収
    金融庁、週内にも一斉処分 健全市場へ規制強化
    ・人手不足、約4割の業種で最悪(日銀短観) 景況感下がる業種も <4>
  4. 04/05

    ・中国、106品目に報復関税(4日) 大豆や車、5兆円規模
    NY株一時500ドル超安に 米国産大豆価格が急落
    米中摩擦、我慢比べ 貿易戦争、本音は回避 水面下で交渉 「暴発リスク」残る
    ロス米商務長官ら相次ぎ火消し 関税発動回避に含み「最後は交渉で終わる」
    ・フェイスブック個人情報流出、8700万人に拡大 20億人の大半に悪用リスク
    ・トランプ氏、アマゾン批判勢い増す 中間選挙にらむ
  5. 04/06

    ・米中摩擦、経済かく乱 鉄や船運賃下げ、株は乱高下 貿易の停滞に懸念
    トランプ氏、報復関税に対抗 対中制裁1000億ドル追加検討
    ・働き方改革法案、閣議決定 脱時間給や残業時間上限 <5>
    ・賃金、3カ月連続減 2月実質0.5%マイナス 物価上昇響く
    ・独、ベビーブームに沸く 出生数、5年で2割増 移民増や支援策影響 <6>
    ・金正恩氏「6か国協議復帰」習氏に伝達 米朝会談決裂に備え
  6. 04/07

    ・米雇用、3月10.3万人増に鈍化 失業率は低水準維持 焦点の賃上げ緩やか
    ・ムシューシン米財務長官「中国と交渉続ける」 NY株反落572ドル安
    ・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長「物価、数ヶ月で上向く」
  7. 04/08

    ・対中制裁関税 米与党が異論「報復、支持基盤の農業に打撃」
    ・生産性高まらぬ雇用増 低賃金のサービス業に集中 収入増やす改革急務
    過去5年間で増えた就業者の94%は65歳以上、6割は介護事業など 製造業は28万人減少

※PDFでもご覧いただけます
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