週間国際経済2016(10) No.49
03/19~03/26

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今週のポイント解説(10) 03/19~03/26

スティグリッツ先生の寄り道

1.消費税率引き上げに「反対」

 ノーベル経済学賞を受賞したヨゼフ・スティグリッツ教授が3月16日に政府の「国際金融経済分析会合」に招かれ、来年4月に予定されている消費税率引き上げに反対したと新聞各紙でも大きく報道された。翌17日付の日本経済新聞では教授とのインタビューが掲載され、その理由として「消費者物価の上昇率も目標の2%を大きく下回る。賃金も充分上向いていない。世界経済も非常に弱い」からだと述べている。

 そして18日の参院予算委員会で安倍首相は「経済が失速しては元も子もない」と消費税率引き上げの再延期に含みを持たせた。著名なスティグリッツ教授の発言が安倍政権の選挙戦略をアシストしたような格好だ。

2.寄り道

 「世界を飛び回る経済学者」としても有名なスティグリッツ教授だが、訪日は政府会合参加が目的だったわけではない。シカゴ大学時代に師事した故宇沢弘文教授の一周忌講演会、そして宇沢教授が代表をしていた「TPP阻止国民会議」での勉強会の講師として招かれたのだった。

 そこに官邸が割り込んできた。「会合」での発言内容は非公開だ。「増税反対」の結論だけが一人歩きする。

 スティグリッツ教授はTPPに断固反対だ。オバマ大統領はTPPは21世紀のルールだと力説するが、教授は多国籍企業のロビイストが書いたアメリカ大企業に都合の良いものでしかないと断じている。金融緩和政策の限界と副作用についても指摘している。法人税減税は投資を増やさないと見ている。つまりアベノミクス主要政策のほとんどに反対しているのだ。

 TPPに反対するために来日して、消費税率引き上げいついて聞かれ「今はその時ではない」と答えれば、そこだけが切り取られて拡散された。

3.教授の主張

 スティグリッツ教授の基本は「グローバリズム批判」だ。それが世界中に格差を撒き散らし、格差を拡大しているからだ。

 今回の来日直前にも新著が発刊された。「これから始まる『新しい世界経済』の教科書」(徳間書店)。格差は(経済的力学ではなく)政策によって生み出されたものであることが解説されている。1980年代以降、富裕層減税、金融規制緩和、労働組合弱体化などによって所得格差が拡大し、その結果消費が増えなくなり投資も減少する。つまり需要不足による「長期停滞」こそ根本的な問題だと。

 こう主張する学者に対して需要を喚起するわけではない増税について「どうでしょうか」と尋ねれば、「それはいいことですね」と支持するはずがないだろう。

4.増税は「公約」

 安倍政権は2014年12月の総選挙の争点に「消費税率引き上げ延期」を掲げた。そして「再延期は(リーマンショックや大震災などのようなことがない限り)絶対にない」と約束した。その根拠は、アベノミクスの成功によってデフレ克服が目前だからだとされた。したがって2017年4月頃には賃金も上がって物価も上がるから財政再建のために消費税率引き上げが可能になると公約したのだ。

 そして議会で圧倒多数を獲得し、2015年度にはたった1回しか国会を開かず、その国会も「安保法制」強行採決に使い果たしてしまった。経済政策について議論される余地すら与えなかった。新しい成長戦略についても、国会閉会後に従来の「目玉」TPPに出生率と介護離職ゼロだけを付け加えただけだった。

 スティグリッツ先生の寄り道は、アベノミクスが機能せず増税のための成長を実現できなかった結果を指摘しただけのことだったのだ。

日誌資料

3/19
・安倍首相、消費増税延期に含み「経済失速、元も子もない」(衆院予算委員会)
・マネー流れ急変 円高、日本株に売り圧力 <1>
 米利上げ鈍化観測→ドル安加速→原油40ドル台回復 長期金利、再び最低に
20160319_01
・黒田日銀総裁就任3年 物価上昇率ゼロ前後 市場の目、厳しさ増す <2>
20160319_02

03/21
・中国過剰債務、膨らむリスク 日本のバブル期並み水準 <3>
 BIS調べ中国民間債務2015年9月末時点で21.5兆ドル、GDP比205% リーマン後4倍に
20160319_03
・アジア開発銀行(ADB)中尾総裁「アジア投資銀との補完可能」

03/22
・米キューバ首脳会談(ハバナ21日)経済連携加速、人権問題では溝 <4>
20160319_04

・北朝鮮、飛翔体5発発射 200キロ飛行、日本海に落下
・中国李首相、ラガルドIMF専務理事と会談「元安で輸出刺激せず」強調

03/23
・ブリュッセル連続テロ 「イスラム国」が犯行声明
 空港・地下鉄駅爆発 30人超死亡 狙われた「EUの首都」

03/24
・日本政府が景気判断を5カ月ぶりに下方修正(3月月例報告)
 消費・企業収益下げ 増税延期論に影響も
・中国の銀行、不良債権が2年で倍増 「ゾンビ企業」整理急ぐ <5>
 不採算なのに生き残る「ゾンビ企業」 融資圧縮で景気下押しも
20160319_05
・短期社債マイナス金利 三井住友リース CP50億円、民間初

03/25
・消費者物価横ばい(2月)2カ月連続 ガソリン・電気代下落
・日本、家計の金融資産最高 昨年末1.7%増の1741兆円
 企業の金融資産も1117兆円と4.4%増え過去最高を更新

03/26
・日本株15年度、外国人が7年ぶりに売り越し 景気に弱き <6>
 売越額4.9兆円 リーマン後2008年度(4.2兆円)上回る公算 アベノミクスへの期待感低下
20160319_06
・日本国債、海外勢の初めて保有10%超(昨年末10.6%)
 海外投資家の保有残高は18%増えて101兆円 逃げ足早くリスク高まる
・中国主導で「アジア金融協会」7月に発足 国際ルールに発言権
 日欧米金融機関も準備会合参加
 アジア投資銀総裁「加盟申請、新たに30ヵ国」
・米GDP1.4%増(10-12月確定値) 消費伸び上方修正

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