週間国際経済2020(35) No.246 11/15~11/21

今週のポイント解説(35) 11/15~11/21

ポスト・トランプのアメリカ「国際協調」

1.アトランティックの孤立

思えば今年のブログはこの言葉から始まっていた(⇒ポイント解説№212)。4回連続のシリーズものだったが、読み直してみればなんてことはない、年末にアメリカの大統領選挙とイギリスのEU離脱期限が連続し、それぞれの内向きのポピュリズム的傾向が加速するという観察軸を示しただけのことだった。

その後、新型コロナ感染が瞬く間に世界に広がっていった。想定外の事態に遭って、しかし観察軸を変更する必要はなかった。パンデミックは、米英ポピュリズムにさらに火を付けたからだ。不安は安定を求め、ポピュリズムは外部とマイノリティへの警戒心を煽り、莫大な財政支出はポピュリストからの支援かの錯覚を人々に与えたからだ。

ぼくは21世紀以降のポピュリズムを「反多元主義」と翻訳している。トランプさんが選挙に敗れ、たとえジョンソンさんがEUとの妥協に屈しても、ポピュリズムはアトランティック(米英)のみならず、世界中で大きな政治勢力として生き残るだろう。

しかしぼくたちは、ひとつの貴重な歴史的教訓を得た。ポピュリズムがたとえ国内政治の一方の軸として存在し続けたとしても、ポピュリズムはけっして国際政治の軸に取って代わることはできないのだ、ということを。

2.「自国第一主義」からの転換

バイデンさんは11月24日、外交・安保分野の人事を紹介し「同盟国と連携すれば、アメリカは最強になる」と、「自国第一主義」と決別し国際協調路線に回帰する方針を鮮明にしたと報じられた(11月25日付日本経済新聞夕刊)。ぼくは大賛成だが、その道のりは遠く険しいものになると心配している。

ポスト・トランプは、トランプ的なものからの非連続的転換ではなく、トランプ的なものの負債を背負うという意味で、連続なのだ。アメリカが国際協調に回帰すると言えば、世界は歓迎するだろう。しかしそれは、国際協調の中心軸として世界がアメリカを迎え入れるということではない。

3.ポスト・トランプとヨーロッパ

11月7日に勝利宣言をしたバイデンさんは、9日にカナダ、10日に英独仏そしてアイルランドの首脳と電話協議を続けた。バイデンさんは、「アメリカが戻ってきた」と伝えたという。

なるほどアメリカは、トランプさんが離脱した「パリ協定」、「イラン核合意」そしてWHOに復帰するだろう。トランプさんが集団的防衛義務を履行しないと示唆していたNATOの同盟関係修復に動くだろう。さて、「覆水」は「盆に返る」のだろうか。

米ピュー・リサーチ・センターが今年の夏に行った調査によると、「アメリカ大統領が世界に対して正しいことをするとの自信がある」との回答は、ドイツで10%、フランスで11%だった。どちらもオバマ政権末期には80%台半ばだった。

トランプさんが信用できないのではない。トランプさんを大統領に選び、今もなお半数がトランプさんを支持しているアメリカが選ぶ大統領を信用できないのだ。バイデンさんもまたそうしたアメリカを、投票数で言えば7000万人のトランプ支持者を内に抱えているのだ。

例えば通商政策。バイデンさんは中国との貿易戦争については制裁関税などの「懲罰的な手段は採用しない」とし、まず国内製造業の立て直しを重視するというが、アメリカはヨーロッパとも関税引き上げの報復合戦の泥沼に入っていた。

「戦略的自立」、最近EU関係者が頻繁に使うようになった表現だという(11月27日付同上)。トランプ政権との対峙でEUが得た教訓とは、「製薬から軍事まで多様な分野で自力で行動できる能力を打ち立てる」ということだった。

過去4年間、様々な分野で世界は驚くほどの速さで変化した。環境、エネルギー、データ。どの分野でもアメリカとヨーロッパの間には深刻な溝が刻まれた。これからアメリカの帰る道は、はたしてヨーロッパの往く道と重なるのだろうか。

4.ポスト・トランプとアジア

RCEPが署名された11月15日の前後は、アジア・ウィークだった。まず14日には「東アジア首脳会議」が開かれた。日米中ロとASEAN10ヵ国などが参加する包括的な協議の場だ。しかしトランプさんは、4年連続で欠席した。

フィリピンのドゥテルテ大統領は、「大国が二者択一を画策していることに断固抵抗しなくてはならない」と訴え、シンガポールのリー首相も「米中緊張はASEANの結束を試している」と話した(11月15日付同上)。

この4年間、ASEANも米中対立に振り回された。安保はアメリカ、経済は中国なんて綱渡りをしていては、ASEAN自身の求心力が弱化する。そして中国への経済的依存は深化し、アメリカの軍事的プレゼンスは低下した。

11月20日、APEC首脳会議がオンラインで開催された。トランプさんは3年ぶりに出席し、アメリカ経済の立て直しを約束した。この約束は誰に対する約束なのだろう。そして、バイデンさんならば何か別の約束ができるだろうか。

バイデン次期政権は、ヨーロッパに対しては「パリ協定」や「イラン核合意」など象徴的かつ具体的な国際協調回帰を印象づける手段がある。アジアには、あるだろうか。TPPには復帰しない。北朝鮮核合意には、触れもしない。

トランプ政権の対アジア戦略は「自由で開かれたインド太平洋構想」とやらだ。アメリカ、日本、インド、オーストラリア4ヵ国で中国を包囲するという概要らしい。そのもともとの有効性はさておき、中国はインドとオーストラリアを執拗に叩いている。インドはRCEPに参加しない。オーストラリアはじわじわと中国の報復関税に痛めつけられている。この構想に見向きもしない韓国は、習近平さんの早期訪韓に動いている。

ポスト・トランプのアジアに、バイデンさんが帰る道は見当たらない。そもそもバイデンさんの大統領選挙公約に明確なアジア政策は見当たらなかった。さて、日本はどうするつもりだろうか。

5.ポスト・トランプの日本外交

菅さんはバイデンさんと11月12日、15分間電話協議をした。菅さんによると、日米安保条約第5条が尖閣諸島の防衛に適用されると確認したということだ。これは安部さんがトランプさんと2017年に確認したことの再確認だ。「自由で開かれたインド太平洋」についても賛意を得たという。

これに中国が反発した。誰もが予想した通り。でも中国外務省が大統領選挙後にバイデンさんの発言にコメントするのは、これが初めてだ。11月23日付日本経済新聞は、「最初の公式見解が相手への批判になる異例の事態となった」と指摘した。

菅さんは14日に開かれた東アジア首脳会議でも、尖閣周辺での中国の行動を取り上げ「日本の主権を侵害する活動が継続している」と批判した。17日には訪日したオーストラリアのモリソン首相と会談し、東シナ海について中国を念頭に「威圧的で一方的な行動に強く反対する」という共同声明を出し、自衛隊とオーストラリア軍との共同訓練を推進することで合意した。

11月25日、中国の王毅外相が訪日し菅さんと会談した。ここでも菅さんは、尖閣周辺で中国公船の領海侵入が続く問題で懸念を伝達した。続く日中外相会議でも日本側は尖閣問題について「強い懸念」を伝達したと明らかにした。

どうやらポスト・トランプにおける日本のアジア外交の最大懸案事項は尖閣のようだ。それが日本の国益にかかる比重についてはいろんな意見があることは尊重する。しかし、それはアジアの共感を得ることができるだろうか。バイデンさんのアメリカは、そこにどれだけの関心を持つだろうか。

ぼくが心配なのは、こうした日本の対中外交がポスト・トランプのアジア国際協調再建の中心軸ではなく周辺化されることなのだ。たしかに菅さんは安部政治を継承することを基本としている。たしかに尖閣問題に対する中国への強い姿勢は国内の支持を得るだろう。

アメリカ大統領選挙期間中、主要国で唯一日本だけが首脳の交代があった。考えようによっては、それは外交指針の見直しのチャンスでもあったわけだ。しかし国際政治にポスト・トランプはあっても、日本外交に「ポスト安部」は見当たらない。

それをバイデンさんの国際協調回帰路線に、どう映り、どう位置づけられるだろう。もう、「日米は100%一致」で乗り切れる時代が終わったことだけは、確かなのだ。

日誌資料

  1. 11/15

    ・RCEP 対中工業品、関税86%撤廃 首相「きょう署名」 <1>
    *アールセップ(東アジア包括的経済連携)
    日本、対中貿易に弾み ルール面に甘さも 妥協優先 中国、孤立回避へ譲歩
    ・東アジア首脳会議(14日) 思惑三様 米大統領選、4年連続出席せず
    中国首相、コロナ対策を支援 ASEAN、米中対立から距離
  2. 11/16

    ・アジアに巨大経済圏 RCEP15ヵ国署名 関税91%段階撤廃 <2>
    日本、インド取り込めず 中国、高まる存在感 米国孤立懸念、欧州足踏み
    日本企業、対中韓輸出で恩恵 戦略品は開放に時間 中国は環境車保護が鮮明
    ・GDP実質21.4% 7~9月 前期比5.0% 年率 4期ぶりプラス <3>
    回復ペース、米中より鈍く コロナ前水準は遠く 10-12月は減速の恐れ
  3. 11/17

    ・モデルナ94.5%有効確認 コロナワクチン 数週内に許可申請へ
    ・NY株最高値2万9950ドル 470ドル高 ワクチン開発好感 <4>
    ・米、感染拡大ペース加速 1週間で100万人超 重傷者も増加
    ・バイデン氏 通商政策「中国に対抗」懲罰的手段は否定 RCEPに焦り
  4. 11/18

    ・EU復興基金、成立に遅れ 資金配分「法の支配」条件に 東欧反発 <5>
    ・脱ガソリン車 世界で加速 新車販売禁止 英、30年に前倒し <6>
  5. 11/19

    ・アップル、米司法省と和解 iPhone速度抑制 違法行為は否定、117億円支払い
    ・アップル、アプリ手数料下げ 中小開発者など30%を15%に 配信独占なお課題
    ・米安保「政権移行期」に隙も アフガン駐留4割・イラク2割減
    トランプ氏、安保より公約実現 バイデン氏には機密届かず
    ・日本、遠い「再生エネ先進国」 昨年度比率18%、欧州の半分 <7>
    ・アント上場、習氏が反対 アリババ創業者、共産党と確執 金融システム巡り
  6. 11/20

    ・米欧景気、停滞再び 欧州で都市封鎖 米は制限強化 経済再開、コロナで中断
    ・ブラジル感染再拡大 富裕層パーティーでクラスター
    ・消費者物価0.7%下落 10月 Go To、宿泊料押し下げ
  7. 11/21

    ・トランプ氏、米経済立て直し約束 APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議で
    ・米台、初の経済対話 1979年断交以来 5Gなど連携 中国けん制
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コメント

  1. 井手口隼大 より:

    バイデン氏が国際協調路線に戻ったとしても、ヨーロッパの国がそれを認めるのか、戻ったアメリカに対し冷遇するなどといったことなど簡単にはいかないと考えられる。もしバイデン氏がトランプ氏のやってきたことなどそのまま引き継ぐのであれば、トランプ氏が大統領の期間が終わるまでトランプ氏の動きに注目しなければいけないと考える。

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