週間国際経済2020(11) No.222 04/13~04/21

今週のポイント解説(11) 04/13~04/21

日本のコロナ対策は経済優先だという仮説を検証する

1.経済対策はなるべく遅らせて、小出しに

日本のコロナ対策が小さすぎて遅すぎることは、国内世論はもとより海外からも指摘されており、そうではないと言うのは安倍政権中枢だけになっている。国際的に見て、日本の行政能力は例外的にレベルが低いのか。いや、それは総合的かつ客観的な評価ではない。そうではなくて、安倍政権は意図的に「遅らせ、そして小出しにしている」ようにしか見えない。

政府の専門家会議が「これから1、2週間が瀬戸際」との見解を公表したのが2月24日、オリンピック延期が決まったのが3月24日、つまり丸1カ月、日本国内は7月にオリンピックが開幕されるだろうという楽観的空気に包まれていた。無理もない、聖火リレーが今にも始まろうかという勢いだったのだから。

これを引き締めるためには「緊急事態宣言」しかない。これを規定する特措法はいかにもずさんな代物だが、「宣言」しなければ未だ「緊急事態」ではないという空気になってしまう。4月1日、世界人口の4割が外出制限の対象となっていたが、安倍首相は「今この時点で宣言を出す状況ではない」と語り、代わりにアベノマスク配布を表明した。

そしてようやく4月7日、緊急事態宣言が発令された。いきなり「人と人との接触を7割、8割減らすこと」が求められた。それなのに愛知県や京都府は対象から外れていた。消費の激しい縮小は避けられない。しかし緊急経済対策は「はりぼて」だった(⇒ポイント解説№221)。とても「8割減」に見合うものではない。

安倍政権は、「宣言」を遅らせたのではなく「経済対策」を遅らせたのだ。しかもこの期に及んで「小出し」だったのだ。海外メディアはこれを「経済優先」だと指摘した(例えばワシントン・ポスト紙”keeping its eyes on the economy”)。

2.弱者切り捨ての経済優先

たしかに日本のコロナ対策担当大臣に指名された西村さんは、経済再生担当大臣だ(3月6日から兼務)。不自然だ。感染対策の専門家会議は国立感染症研究所を中心に構成され、同研究所は厚生労働省所管だ。西村さんのスタッフではない。西村さんのスタッフは経済優先官僚たちだ。西村さんは「休業補償はしない」と断言し、宣言以降も東京都に対して休業要請の範囲を小さく時期を遅らせるように要求した。どう見ても「8割減」担当ではない。

安倍首相は緊急経済対策について4月7日には「世界でも最大級」だと自賛し、13日には「世界で最も手厚い」と胸を張った。そこで人々の希望は奪われた。「だからこれ以上は出せません」としか聞こえないからだ。休業しても、その先が見えないのだ。その4月13日までに、雇用調整助成金に関する相談は12万件近くになったが、手続きの煩雑さから申請件数は約460件、支給が決定したのはわずか3件だ(4月20日付日本経済新聞)。

世帯あたり30万円が一律10万円に変更されたことによって補正予算は組み替えられることになり、その国会提出は、これからだ。本来セットのはずが、緊急経済対策は緊急事態宣言から1カ月遅れることになったのだ。これはもう遅刻ではなく、欠勤だ。

休業を余儀なくされ、補償は間に合わず、事業継続をあきらめ、雇用を維持できなくなって、対象が絞り込まれてからの経済対策を「緊急」と呼ぶなかれ。すでに多くの経済的弱者が、切り捨てられている。経済優先?とんでもない。

3.ドイツ・モデル

EU諸国はもとより、柔軟に解雇を容認するアメリカも、今は雇用維持に懸命だ。中小企業の人件費の2.5カ月分を実質肩代わりする予算38兆円が2週間で底をつけば、直ちにほぼ同額を追加した。

かれらが手本としているのは、リーマン危機時のドイツの失業抑制対策だという(同上参照)。当時徹底した雇用維持に政策資源を投じたドイツは、2009年のマイナス成長から2010年にはプラス4%台にまで回復した。これこそが「経済優先」だと認識しているのだ。

雇用を守るためには賃金補償だけでは足りない。中小企業の廃業を食い止めるためには、まず家賃だ。アメリカでは家賃滞納は120日間延滞料を徴収されず、その後も家主は30日間以内の立ち退きを要求できない。イギリスでは3ヶ月間、家賃未払いを理由とした家主による退去要請を禁止し、ドイツは賃貸解約を禁止し、さらに4月から6月までの家賃は2年間支払いを猶予する(4月14日付同上)。

これらはすべて、3月中に法律が成立している。4月になってオーストラリア、シンガポールがこれに続いている。日本では、家主に対して「柔軟な対応を検討するよう要請」しているという。法制化については、これからやっと検討するようだ。

経済優先とはすなわち、決して弱者を切り捨てないことなのだ。これは理想論ではない。リアルな教訓から導かれた政策判断なのだ。

4.経済再開の条件

4月8日、武漢の都市封鎖は解除された。韓国では投票率67%という総選挙が実施された。その韓国や台湾では無観客とはいえプロ野球が開幕した。ドイツは4月20日から営業規制を一部緩和した。アメリカは感染が少ない地域から経済活動の再開を3段階で進める指針を発表し、テキサス州やフロリダ州などが17日から店舗営業を再開すると表明した。

もちろんこれらは感染者数増加のリスクを隣り合わせた。慎重でなくてはならない。では、ここで言う「慎重」とは「客観的判断」を意味する。

4月22日付日本経済新聞によると、EUは経済再開の条件として、①感染拡大の鈍化、②大規模な検査能力、そして③十分な医療体制の3つを条件に挙げている。まず、①感染拡大の鈍化に、客観的基準が設定されることが大切だ。

ここでドイツなどが重視しているのが「再生産数」だという。1人の感染者が新たに何人に感染させるかを示す。1未満なら、流行が収まりつつあるということだ。ドイツが営業規制を一部緩和したのも0.9まで下がったからだ。一時4を超えていたNYも1を下回っている。しかし東京は感染者数がまだ少なかった3月中旬でも1.7、それも推計にすぎない。

この再生産数が1を超えるか超えないか、それはひとえに大規模な検査数にかかっている。ドイツは現在も1日5万件以上だが、それをさらに大幅に増やすという。ちなみに日本は、過去最大でも1日8000件前後だ。しかも集中治療室(ICU)の人口10万人当たり病床数は、ドイツの4分の1以下だ。そのドイツでも、再生産数が1.1を超えると医療システムが限界に近づくという。

5.5月6日

緊急事態宣言の期日が近づいている。とうとう緊急経済対策は、その後に実施されることになる。ぼくは前回、この期間中に実施されるのは布マスク2枚になりかねないと書いたが、それすらも間に合わなかった。

さて、緊急事態はどうなるのだろうか。ぼくが心配しているのは、客観的基準なき「部分緩和」だ。最近になって専門家会議も感染のピークは過ぎたと言い出した。大型連休中に検査数は大幅に減るだろうから、感染者も減るだろう。あるいは、「自粛」できなかったパチンコ客や県外移動者を吊し上げて、そのバッシングの勢いに任せてそのまま継続するのかもしれない。どちらにせよ「責任なき政治」が続く恐れがある。

経済対策は実行されず統計的エビデンスも取れない、「失われた1カ月」だった。たとえ責任は不明でも、せめて反省は明確にしなければならない。

反省のひとつは、とっくに「クラスター作戦」は失敗に終わったているということだろう。そして検査拡大の必要性と、検査キャパシティの限界をという矛盾をどう解決するかが問題になる。厚労省が「ドライブスルー方式」のPCR検査を容認したのは4月15日だった。遅い。保健所機能がクラッシュするのは目に見えていたのに。

つまり日本は、すでに一国ではコロナ感染予防に対応できなくなっていることを認めるべきなのだろう。検査体制も医療備品も家庭のマスクも、絶望的に追いつかない。これも目に見えていたことだ。ならば、ここは「外交のアベ」とやらの見せ所ではなかったのか。

ドイツもスイスも、フランスやイタリアから重症者患者を受け入れている。中国やキューバは医療チームを海外に派遣している。中国の「マスク外交」がひんしゅくを買っているが、日本は外交的価値がないのだろうか。韓国の検査ノウハウを含め、近隣互助は災害対策の基本だ。

そして、すぐさま第二次補正予算に取りかかろう。(第一次)緊急経済対策は「世界でも最小級」で、「世界でもっとも手厚くない」ことが明らかになったのだから。切り捨てられた弱者の救済も含めて、最低限「世界標準」の経済支援を実施することが喫緊の課題だ。

安倍政権のコロナ対策は、「経済優先」でもなければ「感染予防優先」でもなかった。なにか別のものを「優先」したのだろう。でも、それにも失敗している。もうあきらめて欲しい。でも、あきらめきれないかも知れない。相互監視世論による統制を強め、正当な要求すら反秩序として排斥しようとするかもしれない。

今こそぼくたちは、日本の民主主義をあきらめてはいけない。明日、誰もが弱者になりうる不条理が、パンデミックというものなのだから。

日誌資料

  1. 04/13

    ・原油970万バレル減産最終合意 過去最大の協調減産
  2. 04/14

    ・家賃猶予に各国動く 廃業防止へ公的支援 日本、要請どまり
    米、12日延滞料なし 独、賃貸解約を禁止
    ・外国人入国9割超減 3月、中韓など大幅に 拒否対象国広がる
  3. 04/15

    ・人口減少率最大の0.22% 総務省推計 昨年、1億2616億人 <1>
    外国人243万人、最多に 20万人増、人手不足補う
    ・米、WHO拠出金を停止 トランプ氏、コロナ対応「中国寄り」
    ・世界経済500兆円超失う IMF、マイナス3%成長予測  <2>
  4. 04/16

    ・途上国の債務返済猶予 年末まで G20、危機回避狙う
    ・世界の財政赤字2.7倍 IMF試算 今年、新型コロナ響き
    ・韓国総選挙、与党が圧勝 単独で法案採決可能に 高い投票率 感染予防を評価
  5. 04/17

    ・全国に緊急事態宣言 13都道府県「特定警戒」指定 来月6日まで <3>
    ・米、3段階で経済再開 トランプ氏「感染少ない地域から」 時期は各州判断
  6. 04/18

    ・中国、初のマイナス成長 1-3月 雇用・所得減 <4>
    ・米、一部州で店舗再開へ テキサス州など 感染者増加の恐れも
    ・コロナ死者15万人超す 米中の集計見直しで増加
  7. 04/19

    ・感染国内1万人超す 9日で倍増、経路不明拡大
    ・米欧、株主還元に監視の目 政府、支援条件に自社株買い禁止
  8. 04/20

    ・補正予算案閣議決定へ 「1人10万円」組み替え
    ・輸出3月11.7%減 米欧・アジア落ち込む
    ・雇用維持、瀬戸際の攻防 米、38兆円の融資枠「蒸発」 仏、対策12兆円に増
    ・「感染拡大、故意なら報い」 中国にトランプ氏が警告
    ・NY州が抗体検査 1日2000件 経済再開時期探る
    感染者数、実際は50倍超か 米カリフォルニア州でコロナ抗体検査
    ・中国、南シナ海に新行政区 強まる実効支配 ベトナムは反発
    ・新興国、コロナ軽視で混乱 ブラジルは保健相解任
  9. 04/21

    ・米、追加対策48兆円 新型コロナ第4弾 中小支援を拡大
    ・EU、企業買収規制強める 中国念頭に審査共有も コロナで株急落、危機感
    ・NY原油、初のマイナス 5月先物投げ売り 在庫抱え保管場所枯渇 <5>
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