週間国際経済2020(8) No.219 03/15~03/24

今週のポイント解説(8) 03/15~03/24

続さらに続コロナ・ショック

1.できることはなんでもやる

災害対策は、最悪を想定することが基本になる。それが未知のウイルスが相手ならばなおさらだ。最悪を回避するために、できることははなんでもする。すると経済状況は最悪に急迫する。そこで経済対策も最悪を想定して、できることはなんでもしようとする。

世界は今、「命」と「人生」に優先順位を付けなければならなくなった。これが直面する危機の深刻さだ。緊急事態の期間が想定されるならば、迷うことはない。しかし「命」を最優先している期間の、そしてその先の「人生」をどう支えていくことができるのか。経済政策はかつてない試練にさらされている。

アメリカや日本は、記録的な持続的景気回復を経験した。それなのに財政はさらに悪化し、金利は異常に低いままだった。つまり、来たるべき不況に備えてはこなかった。そこで財政政策も金融政策もできることはなんでもしようとするのだが、できることが極めて限られている。いきおい、本来できないこと、やってはならないことまでやろうとする。

一般的に政治判断は、政治家の「任期」に大きな影響を受ける。したがって「その先の人生」を軽視する傾向がある。若者の政治参加意識が低いほど、その傾向は強められる。例えば株価対策がそれだ。大多数の人生は、それほど資産価格に左右されない。大切なのは資産所得ではなく、勤労所得だ。

したがって命を最優先にする緊急事態においても、嵐の後の「正常への回帰」においても、勤労所得の維持が、それが消費に向かわず貯蓄されたとしても、人生を、その共同体としての経済を支えることにつながるのだ。

週間、どころか数時間おきに事態が急変する情勢に対して、ぼくなんかがいったい何を語れるというのだろうか。このブログもしばらく閉じようかとも思った。その無力感に抗い、無知を恐れず、描写に努めよう。それくらいしかできないが、できることはなんでもしよう。

2.ヒトの移動制限恐慌

人為的に世界恐慌を起こそうとするならば、世界中の国境で人の移動を止めればいい。それだけで生産と消費が急減して、大量の雇用が破壊される。今、世界中の国境に事実上の入国禁止が広まった(日誌資料1)。これこそが現在の経済危機最大の特徴だ。したがってこの規制を国際的協力のもとで緩和していくことが、重要な経済対策となる。

きのうの夕刊(3月26日付)では、主要7ヵ国外相会議(テレビ会議)で必要最低限のヒトの移動を確保するための実務レベル協議を進めることで合意したと報じられた。入国および出国検疫の国際的協力をはじめとして、その必要最低限の範囲と合意国の拡大を急ぐべきだ。WHOをはじめ、入国規制は有効な対策ではないとする専門的知見は多い。

一方、都市や州など地域単位の移動制限は、それぞれの医療体制に応じて専門家の意見に従うべきだろう(日誌資料2)。問題は、その実行力だ。日本では、アメリカの感染者数が3万人に達した(3月22日)なかでもオリンピックは予定通りとの姿勢を崩していなかった。その楽観的空気を一変させるのはたいへんだ。さらに日本では検査数が圧倒的に少ないから身近な陽性者が見当たらず、自粛は各自の気分任せになりがちだ。そのため感染拡大対策にも収束にも、要する時間に大きな差が出るようで心配だ。

さて、ここでのキーワードは「不要不急」だ。じつは日米欧経済は、この不要不急に支えられている。3月22日付日本経済新聞によれば、ホテル・レジャー、運輸、小売り3業種が日米欧GDPに占める比率は13%だが、雇用の25%以上を占めている(約1億人)という。そしてこれらの業種は比較的賃金水準が低く、雇用形態も不安定だ。移動制限はここを直撃する。言うまでもなくここで働く者にとって「不要」でもなければ「不急」でもない。時間との勝負だ。

3.財政政策総動員

トランプ政権は3月21日、GDPの10%に相当する約2兆ドルの経済対策を表明した。ここには大人に最大1200ドルの現金給付が含まれている。ドイツ政府は基本法(憲法)で均衡財政が義務づけられているが、それを封印して約18兆円の国債を発行して零細企業や個人事業主への支援に充てる。イギリスは約4兆円の純粋な財政出動とは別に、GDP比15%にあたる信用供与枠を設ける。

中国は中小・零細企業の保険料負担分を5ヶ月間減免し、財政出動規模は約18兆円、オーストラリアも中央銀行の対策を含めればやはりGDPの10%近い経済対策規模になる。どん底のイタリアも売上減の企業支援に約3兆円を支出する(日誌資料5)。

共通点の第一は、過去最大の規模の大きさだ。第二は、中小企業に重点的に配分していること。第三は、速さだ。これらは評価できる。トランプさんは大企業支援にこだわりを見せるが、政府与党案のなかにぼくはなるほどと思う対策を見つけた。それは中小企業向けに3000億ドルの融資枠を設けて、これを従業員の給与に使えば返済不要とする、事実上の給与肩代わりだ。倒産と失業を食い止める妙案ではないだろうか。

残念ながらこれら共通点から、日本は例外だ。まず、遅い。消費税減税なのか、現金給付なのか、商品券(お肉券やらお魚券やら)、オリンピック延期に伴う追加経費も考えなくてはならないのだろうが、4月にまとめるという。遅い。現金は消費に回らないとか、麻生さんなんかは「現金は銀行にあるでしょ」とか。ぼくは驚いた。まずは景気対策ではなく救済なのだ。貯蓄に回せない人々がたくさんいるのだ。速くて、使い方が自由なものがいい。だからまずは低所得者への現金給付だと、ぼくは思う。

さて問題は、財政の悪化による金利の上昇(国債価格の下落)だ。

4.無制限量的緩和

FRBは臨時の米連邦公開市場委員会を3月23日に開き、米国債や住宅ローン担保証券の買い入れ量を当面無制限とする措置を決めた。国債乱発による長期金利上昇を抑制するためには国債を買わないといけない。もうヘリコプターからおカネをばらまく状態だ。「禁じ手」解禁はこれだけではない。消費者ローンを担保にした証券も買い入れる。家計向けローンの金利上昇を食い止めるためだ。

ぼくはこれらを条件付きで容認する(条件はあとで)。というのは、もちろん借金漬けのアメリカ家計を守ることも大切だが、この金利上昇が過度なドル高を招くことを恐れるからだ。

コロナ・ショックで短期のドル資金が足りなくなっている。投資家たちは株を売り、国債を売り、金も売っている。「キャッシュ・イズ・キング」パニックだ。この現金化の動きに資金供給が追いつかない。だから金利が急上昇して、ドルの名目実効レートは34年ぶりの高値を付けている。

危機は周辺から起こる。このドル高・高金利によって新興国からの資金流出が止まらない。とくに資源国の通貨下落が著しい。しかしコロナ不況に対応して利下げせざるを得ない。さらに新興国通貨が売られ、下落する。通貨下落したぶん、ドル建て債務が膨らむ。 世界的低金利のなかで緩和マネーは利回り稼ぎを求めて新興国に流れ込み、新興国のドル建て債務(新興国通貨をドルに替えて返済する借金)はこの10年で2倍以上に増えて、400兆円以上になっている(日誌資料3)。

この返済負担が新興国経済の景気を悪化させ、さらに通貨下落による輸入インフレが発生すると、債務返済不履行を起こしかねない。そうなれば、国際金融市場は大混乱に陥る。金融緩和依存で緩みっぱなしだったツケが、倍返しになって襲ってくる。

新興国の生産と消費が大きく痛めば、世界経済の景気回復はさらに遠く、遠くなる。

5.やってはならないこと、やるべきこと

やってはならないとぼくが思うのは、公的マネーによる株価下支えだ。その最悪の例が日銀によるETF(上場投資信託)の爆買いだ。もとより主要国中央銀行で株をやっているのは日銀だけだ。その保有目標残高を3月16日に6兆円から12兆円に倍増させた。この市況で6兆円も株を買い増す気が知れない。それもあれこれセットで買うから、企業業績が悪い銘柄も買う。業績が悪いから株価は下がる。無駄金だ。しかも含み損が出れば政府が埋めてあげないといけない。

今の株式市場は完全なバーチャル・ゲームだ。もちろん持続的な回復は見込めない。だから一時的な株高は、緊急対応資金の水漏れに等しい。したがって自社株買いも厳しく戒められるべきだろう。企業価値は時価総額では計れない。

喫緊の課題は、投機の規制、なかでも空売りの規制だ。投機で一番儲かるのは暴落だ。新興国通貨でも国債でも、なんとか踏ん張って持ちこたえるものを借りて売り浴びせて、暴落すればそれを買って返して利益を得ようとするなどは、この時期「火事場泥棒」のそしりを免れない。2007年までは借り入れた証券を直近の約定価格より低い価格で売ることを禁じていた(アップティック・ルール)。これが撤廃された1年後、リーマンショックが起きたのだった。今この規制を、時限的にでも厳格にかつ国際的に復活させて欲しい。

マスクも財政支出資金も、今必要な人々に届けねばならない。それが社会の維持、回復につながるからだ。転売や投機に費やされてはやりきれない。医療資源を重篤者に集中させるように、経済資源を低所得者に行き渡らせなくてはならない。資源の効率的配分のためには、国際協調が不可欠だ。間違っても隣人への憎悪を煽ってはならない。問われているのは隣人への配慮だ。

歴史的に克服できなかったウイルス感染はなく、回復しなかった不況もない。「命」と「人生」はトレード・オフではない。共通の敵に共同で闘う社会意識が最大の戦力となる。次回は、そうした希望の灯火を拾い集めたいと思っている。企業の社会的貢献、国境を越えた医療活動、自国の政治日程を優先しない国際協調など。でも今、予定は祈りに近い。

日誌資料

  1. 03/15

    ・世界で時価総額10兆ドル減 激動の1週間 市場動揺続く
    ・新型コロナ対策総動員 米欧 検査拡充や企業支援 米、非常事態で5兆円
  2. 03/16

    ・米、ゼロ金利復活 1%の緊急利下げ(15日) 量的緩和を再開
    ・中国、消費・生産マイナス 1~2月 主要統計軒並み悪化
  3. 03/17

    ・G7、新型コロナ対策連携 首脳テレビ会議 日銀ETF購入倍増
    ・NY株暴落2997ドル安 下げ幅最大を更新 信用収縮止まらず
    ・欧米、一斉に入国制限 米「10人超の集会回避を」 <1>
  4. 03/18

    ・米、1兆ドル経済対策 現金給付を検討 NY株反発1048ドル高(17日)
    ・米「1強景気」に後退懸念 トランプ大統領「ありうる」 沈静化「7月か8月」
    ・2月、中国からの輸入47%減
    ・日銀含み損「2兆円~兆円」 黒田総裁、試算示す
  5. 03/19

    ・NY株2万ドル割れ 前日比1338ドル安(18日) NY原油18年ぶり安値
    ・世界失業2500万人にも ILO予測 金融危機上回る恐れ
    ・米・カナダ国境閉鎖 米自動車3社生産中止 北米で30日まで トヨタや日産も
  6. 03/20

    ・訪日客、2月58%減 5年5カ月ぶり低水準
    ・原油安、産油国財政が悪化 米ドル固定 通貨につり圧力
    ・資源国、通貨安ジレンマ 利下げ、資金流出に拍車 <2>
  7. 03/21

    ・ドル34年ぶり高値 信用収縮深める恐れ 債務膨らむ新興国に打撃 <3>
    ・米、全世界への渡航中止 NYなど3州移動制限 7000万人経済圏に影
    ・NY株週間17%急落 リーマン後以来の大きさ NY原油一時20ドル割れ<4>
    ・独、健全財政棚上げ 欧州委「財政ルール全面停止を」 経済下支え優先
    ・コロナ死者、世界で1万人(20日) イタリア、中国を上回る
  8. 03/23

    ・新型コロナの経済対策拡張 主要国、GDP比10%も 米は2兆ドル案 <5>
    ・米からの入国に規制 来月末まで2週間の待機要請
    ・米の感染、3万人超 NY州が半数 外出制限相次ぐ
  9. 03/24

    ・米、量的緩和無制限に 金利上昇防ぎ流動性確保
    ドル資金の目詰まり解消を急ぎ、家計向けローン上昇を抑制
    ・ドイツ経済対策、GDPの2割 国債18兆円を発行 7年ぶり借金ゼロ路線を封印
    ・外出制限、世界で拡大 英は全土、米は15州以上 <6>
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