週間国際経済2015(8) 05/18~05/24

05/18
・オスプレイ着陸失敗 ハワイで訓練中、1人死亡

05/19
・ケリー米国務長官訪韓 日韓関係改善促す 対北朝鮮危機感を共有
・ILO(国際労働機関)雇用正規化で3.7兆ドル効果と推計 世界GDP3.6%押し上げ
正規
・非正規賃金格差合計は2008年の1580億ドルから2013年は1兆2180億ドルに拡大
 賃金格差改善で消費拡大、投資を刺激し税収増にも貢献

05/20
・日本2014年度実質GDPが5年ぶりマイナス 前年比1.0%減
 消費3.1%減 設備投資0.5%減 輸出は8.0%増と2年連続プラス
・日本1-3月実質GDP,前期比0.6%(年率2.4%)増 <1>
 輸出は鈍化 消費は増税後の反動期から回復しつつある 公共投資は人手不足で工事の遅れ
 在庫投資がプラス0.5%(出荷増を見込む在庫か出荷減による在庫かで確定値修正の可能性)
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・日経平均2万円台回復(3週間ぶり)欧米株高で不安後退 緩和頼みに警戒も
・米シェール生産頭打ち 原油安で投資抑制 設備数はピークから6割減少 <2>
 今年後半に減産加速か 原油価格1バレル=70ドルに向かえば開発再開の可能性
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・欧州新車販売、4月7%増の112万台 20ヶ月連続プラス <3>
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・米4月住宅着工20%増 24年ぶり増加率 市場予測を大幅に超える
・李克強中国首相がブラジル訪問(19日)インフラや製造業に6兆円超の経済協力

05/21
・4月訪日外国人が過去最高の176万人 GDPを0.1%押し上げ要因に
・安倍首相、党首討論で「ペルシャ湾機雷は例外」
 「他国の領土・領海に戦闘では入らず」「日本の意思に反して巻き込まれることはない」

05/22
・米資金、高リスク商品へ 低格付け債などに270兆円流入 利上げ波乱要因に
・自動車版サブプライムローン急増 全体の3割 危機前の水準超える <4>
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・日本の対外純資産、14年末過去最高の366兆円 海外M&A増える <5>
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・安倍首相「アジアのインフラ整備に5年で13兆円」アジア開銀(ADB)と連携
 国際交流会議「アジアの未来」晩餐会で演説

05/23
・イエレンFRB議長 利上げ「年内のある時点で」景気回復に自信
 金融引き締めが後手に回ると「景気過熱のリスク」につながりかねないと年内利上げに意欲
・アジア投資銀首席交渉官会合(シンガポール22日)資本金倍増1000億ドル合意
 中国の出資比率30%近く影響力、圧倒的 <6>
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05/24
・NPT(核拡散防止条約)再検討会議決裂 最終文書採択できず

※PDFでもご覧いただけます
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ポイント解説 (8)

シェール革命って「革命」だったのでしょうか?

 まずおさらいから。シェールとは頁岩(けつがん)と呼ばれる薄い岩盤が積み重なったもので、ここにガスやオイルが堆積していることは以前から知られていました。これを水圧破砕法という高圧の水で岩盤を砕く技術が2000年代になって開発され効率的に採掘できるようになったということですよね。つまりコストダウンによって採算が合うようになったという資源です。これがアメリカで開発されたものですからたいへんな騒ぎになりました。世界最大のエネルギー消費国であるアメリカがエネルギー輸出国になる、アメリカの経常収支は黒字化するだろう。さらに新規産業ですから雇用を生み、電気代が下がり、そのぶん家計の可処分所得は増え、企業の競争力も高まる、「シェール革命」だというのです。

 ぼくの授業でもシェール革命についての質問が増え、レポート課題にする学生も多くなりました。「先生はどう思いますか」と聞かれて困った顔でいつもこう答えていました。「莫大な資源開発が採算が取れるようになってエネルギー供給が急増すると、それに相応した需要が伸びない限りエネルギー価格は下落して採算が合わなくなるんじゃない」、そう資本主義社会では利益の出ない資源は資源ではないのですから。実際、シェール革命が大騒ぎになったのは国際原油価格が中東情勢の混乱やウクライナ問題で高騰していた時期と重なります。

 昨年末あたりから原油価格は急落しました。1バレル=80ドル台から40ドル台にまで安くなったことはポイント解説で触れたことがありますね。世界的デフレからエネルギー需給がだぶついているのにサウジアラビアなどが減産調整を見送ったことが原因だと。さて、シェールガスの採算ラインは、つまり石油より安いから売れる線は原油価格1バレル=50ドルあたりだということです。つまり採算が合わなくなってしまったのです。

 シェール炭鉱は生産設備(リグ)を設置して2年から3年で掘り尽くしてしまします。中東の油田のように一度やぐらを建てればピューピュー出てくるものではありません。ですから向こう2年で採算が合わないとみると投資しなくなるのです。5月20日の記事はついにシェール生産が頭打ちになったと伝えています。グラフ<2>をみると今年になってリグの数は半分以下になって、3年で3倍になった主要鉱区のシェール生産が減り始めています。同時に原油価格はじわじわと上昇していますが、1バレル=70ドル近くにならなければシェール開発再開の目途が立たないと。すると原油価格はそのあたりまで上昇すると考えることもできます。

 さて、エネルギー価格の下落は世界景気回復の追い風でした。ヨーロッパの新車販売の伸びやアメリカ住宅着工の増加(いずれも5月20日付)もその恩恵を少なからず受けています。気になるのは5月22日の記事、アメリカの自動車版サブプライムローン(低所得者向けローン)が急増し、自動車ローン全体の3割を占めるようになってこれはリーマンショック直前の水準を超えていると。さらに心配なのは予想される国際原油価格の高騰がアメリカの利上げとタイミングが重なる可能性が高いということです。とくに日本経済にとってはそれが円安の進行と重なる可能性があります。実体経済が回復しないまま物価だけが上昇するとスタグフレーション(不況下のインフレ)というやっかいな経済病を発症することにもなりかねません。

 巨大資本は強力な発信力を持っています。「なんとか革命」ブームには注意しましょう。

日本の経済成長率がプラス2.4%!

 今年1-3月期の実質GDPが前期比0.6%増えました。2.4%というのは年率換算で四半期(3ヶ月間)のおよそ4倍、つまりこのままのペースならばという数値です。しかも速報値です(確定していません)。新聞やテレビの見出しではこの2.4%という数字が踊って景気回復情報に感じられます。ちなみに同時に発表された2014年度の経済成長率は前年比1.0%減、5年ぶりのマイナスでした。アベノミクスで景気は回復していないということになります。

 でも今年は出足好調、なのでしょうか。GDP伸び率の内訳を見てみましょう。表<1>では全体0.6%増のなかで消費が0.2%増、設備投資は0.1%増と伸び悩んでいます。公共投資がマイナスになっているのは、予算は組んでいるけど現場では人手不足(公共工事が多すぎて)のために工事が遅れていることを表しています。輸入は原油安を反映しています。大きいのは在庫投資の0.5%増ですね。あれ、在庫って投資なんでしょうか。たしかに新しく生まれた価値ですからGDPに計上されますが、問題はその内容です。

 在庫には大きくふたつの種類があります。出荷増が見込まれているから在庫を抱える場合と、予想より売れ残ってしまった場合です。内閣府の速報値では最近の動きから推計して算出しています。そしてどういった種類の在庫なのかを財務省が後で計算して、確定値が修正されます。最近の動きといえば前期、つまり2014年度10-12月期ですが、このときは在庫投資の経済成長率寄与度が結果的にマイナスに評価されて0.2%の下方修正が行われました。在庫は取り崩されたのです。しかし今回の速報値は、まだどちらかはわからないという状態です。

 すべての在庫が出荷されれば成長率は速報値通り、取り崩されたぶんが下方修正されることになります。市場ではおそらく0.3%くらいは下方修正されるだろうというのが大勢です。すると年率1.2%くらいまで下がります。最近はこの在庫投資が大きすぎて速報値と確定値の誤差を大きくしています。前期はマイナスに作用したのだから、今期速報値では少し控えめに発表したほうが情報として役に立つと思うのですが。そこは内閣府、国会審議入り前に景気の良い数字にした、と考えるのはうがち過ぎでしょう。

 安倍首相「アジアのインフラ整備に13兆円」

 東京で日本経済新聞社などの主催で第21回国際交流会議「アジアの未来」が開催され、21日の晩餐会で安倍首相は演説の中で「アジアのインフラ整備に今後5年間で13兆円を投じる」と表明しました。こんな大きなことをいっさい国会などで話をせずに国際的に約束するのは安倍首相の得意技ですね。それはさておき13兆円というのは約1100億ドルです。そう中国主導のアジア投資銀行(AIIB)が57カ国の出資による合計1000億ドルの資本金を上回る資金を日本単独で出すというのです。言いたいことが三つあります。

 ひとつめ。たしかにアジアには毎年100兆円にも上るインフラ需要があるといわれています。日本主導のアジア開発銀行(ADB)と中国主導のAIIBが投資合戦をするようになれば過剰・重複投資によって投資効率が損なわれる心配があります。また受け入れ国もADBとAIIBの間でより有利な投資条件を巡って駆け引きをしないとも限らないという、いわゆるモラル・ハザードの問題が大きくなるのではないでしょうか。

 次に、中国のこの分野での主導権に懸念があるのならば、AIIBに重要ポストで参加するべきではないでしょうか。安倍首相が約束した資金の10分の1でもAIIB出資比率の10%以上を占めることになります。これに欧州勢の25%を加えると中国の30%を超えることになります。つまりヨーロッパと協力すれば中国の独断的運営を縛ることができます。

 さらに、この会議にはアジア各国の首相級の指導者が集まっています。講演をしたのはシンガポールのゴー前首相(現名誉上級相)で「日中韓とASEANによる新たな経済共同体の創設」を提言しました。地域の繁栄には平和と安定が不可欠として日中韓の関係改善を呼びかけ、それが全体の基調となっています。そこで日本が中国に対する対抗心をあからさまにして巨額のおカネを掲げることは、信頼を高めるのでしょうか、失望されるのでしょうか。国際世論は国内世論とは違うのです。

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