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週間国際経済2024(4) No.378 02/04~02/14

今週の時事雑感 02/04~02/14

少子化、異次元の無策

「思いつき」と「つぎはぎ」

政府は2月16日、少子化対策に関する改正法案を決定した。児童手当の所得制限撤廃と育休給付引上げ、「こども誰でも通園制度」などがおもな内容だ。財源3.6兆円が確保できるのか、その見通しは立っていない。

その財源とされているのは、第一に医療費抑制。しかし例えば介護保険サービス費用2割負担の対象を増やすことは先送りされた。第二の既定予算の活用などは、まったく不透明だ。問題になっている第三の「支援金制度」。これは給与から医療保険料と合わせて天引きされるもので、26年4月から徴収が始まり、28年度に年1兆円を確保するという(2月17日付日本経済新聞)。岸田首相はこの支援金について「1人当たり月500円弱になる」が、賃上げなどによって「実質的な追加負担は生じない」と言う。

昨年1月の施政方針演説で岸田首相は「異次元の少子化対策」(あらため「次元の異なる少子化対策」)をぶちあげた。そのときのブログでぼくは、これは「思いつき」と「つぎはぎ」だと書いている(⇒時事雑感№337)。「思いつき」というのは、岸田氏は子ども・子育て予算「倍増」を打ち上げて、これを「異次元」だと言い出したのだ。政策の内容は「これから」だと言う。つまり「思いつき」だ。そんなことをしていたら施策は「つぎはぎ」になるし、財源も「つぎはぎ」になると心配していた。そして結局、そうなった。

非正規雇用と少子化

2月17日付日本経済新聞に「結婚氷河期」脱却見えずという記事があった。昨年の婚姻数が90年ぶりに50万組を下回る見通しだという。90年前と言えば昭和8年、当時の日本人口は今の半分、6700万人ほどだった。たとえ少子化対策が異次元だとしても、そもそも婚姻数が激減しており、そして日本は婚姻関係にある夫婦の子どもが出生数の98%を占めている。婚外子に対する社会的保障が不当に低いからだ。例えばフランスなどは、出生数の6割が婚外子だが、どのような形態の家族であれ「子どもの権利」は同等だ。

つまり「伝統的家族形態」に拘泥する自民党政権のもとでは、婚姻数が減少すれば少子化が加速する。そして結婚しないのも、結婚しても出産をためらうのも、同記事は「若年層の不安定な雇用と所得の低下だ」と指摘する。連合の22年の調査によると、正規雇用の女性のうち配偶者がいる人は63.6%、非正規では34.1%、また正規雇用の女性のうち子どもがいる人は57.7%だが、非正規では33.2%だという。

全就業者の40%に達する非正規雇用の人々の目には、なに?第3子以降に月額3万円支給?育休給付?就労を問わない誰でも保育?どれもこれも「異次元の無策」と映るに違いない。

現役世代負担増の少子化対策

三菱総合研究所の試算によると、医療・介護費の国民負担額は2040年に27兆円増え、それをすべて保険料で20~60歳の現役世代が負担するとなると、1人当たり年46万円の増額になる。しかも医療の窓口負担も現役世代は3割だ。そこにさらに「月500円」負担しろというのが、今回の少子化対策だ。

この「月500円」の裏に隠されているのは、企業負担だ。そして実際には保険料を負担しない健保加入者分も負担するから、会社員の負担額は月1000円を優に超える。さらに先に見た年46万円の負担増も、労使折半だから企業負担が23万円になる勘定だ。どうだろう、これで企業は正規雇用を増やすだろうか。

10年後に年金受給年齢になる世代の非正規雇用の人々の報酬比例年金受給額は10万円にもならない。年金財政が立て直されていないからだ。まずデフレ期に給付が抑制されなかった分、将来世代の給付を抑えなくてはならなくなっている。給付開始年齢の引き上げも後送りされ続けている。このままでは就職氷河期世代の多くは65歳を過ぎても年金をもらえない。2023年11月21日付日本経済新聞では、抑制されなかった年金を将来世代が負担を迫られる「暗黙の債務」について識者が指摘していた。基礎年金の半分は国庫負担だから税負担が兆単位で増える。年金改革が間に合わなければ生活保護に流れる氷河期世代が大量に生じかねないという。そして生活保護財源は全額公費だから、それもまた将来世代の負担となる。

ここでもう一度、政府の少子化対策改正案の一覧表を振り返ってみて欲しい。無策だ。

少子化問題は人口減問題だ

2030年以降、日本の総人口は毎年70万人を超すペースで減っていく。そうしたなか、民間有識者でつくる「人口戦略会議」が1月9日に「人口ビジョン2100」を発表した。その提言のなかで、「政府が取り組んできた少子化対策は概して単発・対処療法的だったと言わざるを得ない」と指摘し、人口減少要因や対策の調査が不十分で、このままだと「完全に社会保障が破綻する。地域インフラの維持も難しくなる」と言及している。

その「人口戦略会議」が示す戦略では、若年層の雇用改善が最重要項目に置かれている。政府の少子化対策でまったく触れられていない項目だ。そして戦略の一環として、国内に永住・定住する外国人との共生にも触れている。そう、人口減を抑制し子どもを増やす戦略が、「日本人の出生数」に限定されていることを問い直すべきだ。労働人口はもちろん、社会保障費負担人口を補い増やさないと、今の日本経済を維持することはできないのだから。

移民解禁

2023年12月26日付日本経済新聞の見出しが目を引いた。いわく「安倍派支配の後、移民解禁の余地生む」とある。安部氏は「移民政策はとらない」と言い続けていた。岸田政権になっても、在留資格「特定技能」の対象拡大案が浮上すると警戒感をあらわにした。自民党は政府の重要政策を先に審査する「事前審査制」を有しており、派閥の数が政策に関与する。その安倍派支配が終わると、移民政策議論の「余地を生む」という記事だ。

この「余地」の動向を見てみよう。昨年11月24日、政府の有識者会議は技能実習見直しの最終報告書案を示し、就労から1年超の転職を認めるとした。技能実習制度はアメリカ国務省から「強制労働」だと批判されていた。転職が認められないため、自由なき実習生に対する人権侵害が多発し、そのため失踪者も増加の一途をたどっている。

しかしやはりというか、有識者会議提言の1ヶ月後の12月12日、自民党は技能実習に代わる新制度の提言案を示し、転職制限を「3年」と示した。労働者ではなく雇用主の利益に立つ姿勢を示したわけだ。

昨年10月に、日本の外国人労働者は200万人を超えた。なかでも特定技能の伸び率が顕著だった。特定技能は現在12分野に限定されているが、各業界からの要望で「自動車運送業」や「林業」など4分野追加する方向で関係省庁が調整に入った。物流の「2024年問題」は待ったなしだ。結局、政府は2月9日、技能実習に代わる「育成就労」の方針を決め、転職制限を1年から2年の間で業種ごとに設定できると定めた。1年か3年か、その間を取ったということか。

2040年に日本の労働人口は、17年より870万人以上減るという。2月6日付日本経済新聞はこの「育成就労」について、「選ばれる国へ半歩」と報じた。1歩も進んでいない、ということなのだろう。

「母国へお帰りください」

ヤフーニュースで見たのだが、埼玉県南部で暮らす在日クルド人の排除を叫ぶヘイトスピーチが急増していることを受けて、静岡選挙区の自民党参院議員の若林さんが、ヘイト的投稿を引用したうえで「日本人の国なので、日本の文化・しきたりを理解できない外国の方は母国にお帰りください」と書き込んだという。記事はヘイトを煽ったとしているが、ヤフコメの大半(見た限り)は、「よくぞ言ってくれた」の類いだった。

とにかく若林さんは、支持を獲得した、つまり「票になった」のだろう。一方、どうだろう。どこかの議員さんが「これからの日本人の国では、日本の文化・しきたりを理解できない外国の方を理解していきましょう」とでも書き込めば、「票を失う」のだろう。

先に紹介した「人口ビジョン2100」のなかで印象的だったのは、「(人口減少の)深刻な影響を国民と共有する姿勢が、政府と民間に欠けていた」と言及しているところだ。少子高齢化への危機感を、多様性に対する煽られた危機感が塗りつぶしている。

くどいようだが、最初に示した岸田政権の少子化対策一覧を振り返っていただきたい。そこには若年層の所得不安、不安定な雇用形態、選択的夫婦別姓、LGBTQ差別禁止、ヘイト規制などには一瞥もくれないまま、子どもがたくさんいればおカネをあげる、正規雇用者の育休給付に配慮する、働いていなくても保育所を使える。子育て予算は倍増しました。月500円くらいなら出せるでしょう。無策、無策。

岸田政権の「異次元の少子化対策」の本質は、「低次元の選挙対策」だ。なにより問題なのは、これで支持率が上がるという発想の政治のもとでは、少子化対策はこれからも無策であり続けるのだろうということなのだ。

日誌資料

  1. 02/04

    ・米、しぼむ「3月利下げ説」 1月雇用、予想外の伸び
  2. 02/05

    ・利下げ「大きく変わらず」 FRB議長、年3回見通し
  3. 02/06

    ・米時価総額、世界5割迫る 20年ぶり水準 中国停滞で集中 <1>
    ・中国、民間時価総額6割減 大手企業、統制強化で不振 止まらぬ「国進民退」
    ・実質賃金2年連続減 昨年2.5%減 90年以降で最低 <2>
    ・消費支出2.6%減少 昨年、3年ぶりマイナス 物価高響く <3>
  4. 02/07

    ・TSMC、熊本に第2工場 2.9兆円投資発表 トヨタ2%出資 27年稼働へ
    ・米EV生産に1900億円 トヨタ、主力工場改修 電池組み立ても
    ・トランプ氏の免責認めず 米連邦控訴裁 20年の大統領選巡り
  5. 02/08

    ・日米韓、貿易で中国離れ 中国は新興国シフト <4>
    米、対中貿易額16%減 昨年、シェア18年ぶり低水準 対立受け供給網変化
    ・経常黒字 昨年92%増 20.6兆円、資源高一服で <5>
    デジタル赤字拡大5.5兆円 5年で2倍に 海外利益、国内還流弱く
    ・EU、環境・産業両立に焦り 温暖化ガス、40年に9割削減 中国製席巻で危機感
    化学農薬に強まる規制 農家反発
    ・休戦案 ハマスの要求拒否 イスラエル首相 ガザ南部の作戦指示
  6. 02/09

    ・日銀、緩和出口へ対話詰め 内田副総裁、マイナス金利解除後に言及
    急速な利上げ「考えにくい」 政府、広がる容認論
    ・中国、止まらぬ物価下落 1月0.8%低下 4ヶ月連続は14年ぶり
    ・「育成就労」制度を決定 外国人人材確保へ技能実習見直し 政府、転職認め
    ・日経平均3万7000円上回る 34年ぶり、一時400円高 ハイテク株に買い
  7. 02/10

    ・ウクライナ揺らぐ結束 ゼレンスキー大統領、軍トップ解任 <6>
    反攻停滞で溝深まる 侵攻2年、細る米欧支援 士気・戦況、交代で影響も
    ・プーチン氏「米、停戦交渉を」 ウクライナ 武器供与の停止要求
    ・米S&P500、初の5000超え AI関連銘柄けん引
    ・韓国第三極へ新党合流 総選挙前、二大政党に対抗
  8. 02/12

    ・IEA、インドと加盟交渉 最終調整 脱炭素で連携へ <7>
    ・台湾第3党、存在感高まる 民衆党、若者の支持拡大 頼次期政権も配慮不可避
  9. 02/13

    ・TikTokで投稿開始 バイデン氏 若年層アピール優先
  10. 02/14

    ・米消費者物価3.1%上昇 1月、市場予想上回る
    ・東アジア、欧州 兵器増強 米中対立やウクライナ侵攻で 昨年9%増
    ・中国66銘柄を除外 米MSCI 全世界株式指数 日印へ資金シフト
    ・トランプ氏発言「間抜け」 バイデン氏 NATO不関与を批判
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