「 2015年11月 」一覧

週間国際経済2015(31)  10/28~11/03

※コメントはこちらから記入できます。

今週のポイント解説(31) 10/28~11/03

経済政策なき日本経済

1.手詰まりの金融政策

 日銀は10月30日に開いた金融政策決定会合で「物価上昇率2%」という政策目標の達成時期を「2016年度後半ごろ」に先送りすることを決定しました。今年の4月にはそれまでの「2015年度を中心とする期間」から「2016年度前半ごろ」に変更していますから半年で2度の先送りです。

 言うまでもなく「物価上昇率2%(前年度比)」はデフレ克服を目指したアベノミクスの大前提です。2012年衆議院選挙での自民党公約ですし、2013年には政府日銀共同声明まで出して約束した政策目標です。その年の4月に就任した黒田日銀総裁は「異次元緩和」によって、そうちょうど今頃にはその目標が達成できるとしていたのです。それがどうしてこうもコロコロと先送りされるのでしょう。

 生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数の上昇率は9月に対前年同月比1.2%、8月は1.1%でした。これを2%にするためには追加緩和が必要になりますが、日銀は賃上げが進まないのに無理に物価を上げても消費を冷え込ませかねないと判断しました。実際9月の消費支出は0.4%減っています。この日銀の判断はすなわち、金融緩和によって物価を上げれば消費が増えて景気が回復するというアベノミクスの考え方そのものの修正が必要であることを示しているのではないでしょうか。

 日銀の追加緩和とアメリカの利上げが重なれば円安がさらに進んで物価が上がることは予想できます。それが来年の後半ならば次の年の春には消費税率引き上げが影響してきます。それでも現在の異次元緩和の継続によって景気は回復すると、日銀は本当に考えているのでしょうか。

 そもそも追加緩和は可能なのでしょうか。現在の国債購入も上場投資信託(ETF)の買い入れも量的に限界に来ていると見られています。だからといって今後一段の緩和がないと市場が見ればどうなるのでしょう。中国が金融緩和を加速させEUも年内追加緩和の姿勢を見せています。日本郵政株の上場で株高は支えられていますが、これがどこまで相場全体をけん引できるのかは全く不透明です。

 日銀は目標達成の前提として、白川前総裁は成長戦略を黒田現総裁は財政再建を政府に要求していました。金融緩和はそのためのカンフル剤、それまでの時間稼ぎに過ぎないからです。本来の経済政策の根幹はその成長戦略と財政再建にあると考えていたからです。では安倍政権はどう考えているのでしょう。

2.アベノミクス第2ステージは経済政策なのか

 安保関連法案が強行可決された直後、安倍首相は記者会見を行い「アベノミクスは第2ステージに移る」と表明し「新3本の矢」を発表しました。「デフレ脱却はもう目の前だ」からだそうです。⇒ポイント解説(26) 同じ人の口から出た言葉です。「デフレ脱却」とは「物価上昇率2%」であるはずです。これは日銀との共同声明まで出した目標ですが、政府は「目の前」、日銀は「1年後に先送り」。

 政府日銀共同声明では日銀の緩和政策を経済財政諮問会議で定期的に検証することになっています。その安倍首相が議長を務める経済財政諮問会議が11月4日に開かれました。ぼくは10月30日の日銀金融政策決定会合の判断について、そこでどのような検証がなされるのかが気になって日本経済新聞の隅々まで読みましたが、どこにもこれに関する記事はありません。あわてて首相官邸ホームページを検索すると、4日には経済財政諮問会議で「金融政策・物価等に関する集中審議(第4回)が行われました」と書いてあります。驚きました。日銀との共同目標が先送りされたことについて何が審議されたのか、あるいは審議もされなかったのか、それが記事にもならないのです!

 経済財政諮問会議については5日付日本経済新聞では4面の片隅に「法人税20%台来年度に」という見出し、朝日新聞では9面の下の方に少し触れているだけでした。信じられません。あれほど騒がれたアベノミクス「第1ステージ」はもう忘れられてしまっているのでしょうか。

 「第2ステージ」については、つまりGDP600兆円目標については少しだけ記事になっていました。諮問会議の民間議員の原案提言があったとのことです。これについては10月31日付日本経済新聞で「原案が明らかになった」という記事がありました。

20151028_03

 このGDP600兆円は、安倍首相の記者会見直後には経済同友会の小林代表幹事が「あり得ない数値だ。政治的メッセージだとしか思えない」と切り捨てた類いのものです。それを東京大学の伊藤元重教授などそうそうたるメンバーが、いったいどうすれば600兆円になるか試しに積み上げたものが原案になっています。

 2014年度のGDPは約490兆円ですから、110兆円増えないといけません。名目賃金が年間3%上がって物価も上がることが前提です。潜在成長率は現在の1%を2倍の2%になれば60兆円増えるでしょう。

 TPPで海外インフラ受注が3倍の30兆円になって、農水産品の輸出が今の約6000億円から2兆円超に増やしましょう。そのためには農地の大規模化を進めましょう(福島第1原発の汚染水処理には触れていません)。訪日外国人による消費も2014年の1340万人から4000万人に受け入れを増やせば2兆円から10兆円に増えるでしょう。労働人口も減っていますから働く女性や高齢者を500万人増やしましょう。所得税の配偶者控除をなくせば働くでしょう。

 もう、やめましょう。虚しくなります。これらをいちいち、その現実味だとか具体的政策のありなしだとか、ツッコミを入れる意味さえ感じません。「新3本の矢」の的は来年の参議院選挙でしかありません。マスメディアもこの問題に触れたがりません。ぼくは、日本経済に経済政策がなくなったと思っています。

日誌資料

10/28
・米、対中国「外交努力も」 南シナ海航行は継続、硬軟両様
 ベトナム、フィリピンの12カイリ内も航行 米軍司令官が来月初旬に訪中

10/29
・米利上げ再び見送り 12月に含み、雇用見極め
・米、南シナ海問題で首脳会談呼びかけ 中国に「人口島」中止説得
 中国「対話で解決」 経済減速、米と衝突望まず

10/30
・米成長1.5%に鈍化(7-9月年率、前期は3.9%) 輸出が伸び悩み
・中国5中全会閉幕 一人っ子政策撤廃 経済減速で転換 <1>
 2016年からの5カ年計画 高速成長から6%台後半の「中高速成長」へ
20151028_01
・メルケル独首相訪中 ドイツに元建て取引所合意 <2>
 中国工商銀行がVWグループに営業運転資金支援で覚書
20151028_02
・日本9月消費支出マイナス0.4%、2カ月ぶり減 物価は2カ月連続下落
・日銀、金融政策決定会議で追加緩和見送り 物価上昇2%目標は来年度後半ごろ
 物価目標再び先送り 4月に「15年度を中心とする時期」から「16年度前半頃」に延期
 進まぬ賃上げ懸念 政策手段に限界の見方

10/31
・GDP600兆円目標で経済財政諮問会議が内訳原案 <3>
 TPPで輸出増25兆円、インフラ受注30兆円、農水産輸出は14年約6000億円から2兆円超に
 訪日外国人消費は14年2兆円を年7~10兆円に(4000万人受け入れで)
 働く女性や高齢者を500万人増やしオリンピック建設投資は10兆円
20151028_03

11/01
・中韓首脳会談(31日ソウル)中韓FTA「年内発効を」 <4>
 中国で人民元建て韓国債発行 南シナ海議題にせず 歴史認識も日本に配慮
20151028_04
・日中韓首脳会談(1日午前ソウル)、3年半ぶり開催 関係改善へ協力 <5>
 FTA交渉を加速 歴史・領土深入り回避
20151028_05

11/02
・日中首脳会談(1日午後)経済閣僚協議、来年早期に <6>
 東シナ海ガス田協議再開めざす 中国の対日姿勢変化
20151028_06
・日韓首脳3年半ぶり会談(2日)慰安婦交渉加速で一致 <7>
 慰安婦財政支援拡大へ年内の進展目指す TPP、韓国参加へ協議
20151028_07

11/03
・オランド仏大統領訪中 中国、仏アレバに出資 原発市場を共同開拓 <8>
20151028_08

・日中韓、協調演出に腐心 会談感情的にならず懸案事項公表抑える
 「歴史」強調せず領土追及避ける 中韓両首脳、来年前半来日へ
・トルコ総選挙、与党圧勝で改憲論 大統領権限強化へ クルド勢力不満も
・米韓安保協議 対北朝鮮ミサイルに積極対応 南シナ海問題は温度差

※PDFでもご覧いただけます
ico_pdf

※コメントはこちらから記入できます。