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週間国際経済2017(33) No.118 10/09~10/15

今週のポイント解説(33) 10/09~10/15

グッド・ニュース?それともバッド・ニュース?

1.8月の経常黒字、20.8%増の2.3兆円

先週、経済学部3年生以上の授業でこの記事について聞いてみた、「これはグッド・ニュース?」。例えばスマホのニュースアプリでこの情報と出会ったら、「黒字」が20%も増えてそれが2兆円以上なんだからとても儲かった話だと感じるだろう。

しかし彼らのほぼ全員が2年生までに習っているのは

経常収支=(貯蓄)-(投資)

つまり対外バランスは国内の貯蓄と投資という対内バランスに等しいということだ。このことはポイント解説でも⇒№56⇒№75などで扱っているが、考えてみれば当然のことだ。

バイトをして収入を得て、買い物をして支出をする。これらは対外取引だが、その差額は自分の財布の中身の出入りだ。すると黒字とは何を意味するのだろう。ここでA君が「今月はバイトを減らしたけど、家に引きこもっておカネを使わなかったから今月は黒字だ」と言うのを聞いて、「A君、景気がいいね」とは言わない。

つまり経常収支とは国内の貯蓄と投資のギャップなのだから、経常黒字とは国内貯蓄が国内投資に向かっていない「貯蓄過剰・投資不足」を表している。それが8月には20%増えてそれが2.3兆円になっているという情報なのだ。

日本ではそんな状態が38カ月も続いている。しかもその2.3兆円のうち2.2兆円が第1次所得収支(海外からの配当金や投資収益)だということは、国内貯蓄は国内投資ではなく海外投資に向かっているということを示している。

2.家計の金融資産、6月末1832兆円、過去最高に

すごい金額だ。日本の家計はGDPの3倍以上も貯めこんでいる。すごくお金持ちなんだ。しかも昨年6月と比べても4.4%も増えている。さて、グッド・ニュース?

所得から税金や保険料を差し引いた可処分所得は消費と貯蓄に分かれる。したがって所得がよほど増えていない限り、家計の金融資産の増加は消費の減少を意味する。今消費するか将来消費するかの選択で、日本の家計は老後など将来の支出に備えている。

内訳を見ても現預金が2.6%増の945兆円、42四半期つまり10年以上連続で増えている。まるで利息がつかないのに、だ。日本の財政見通し、医療や年金、子育て介護、そうした社会保障に対する不信から消費を削っている。

3.日本の海外資産、初の1000兆円に

これもGDPの2倍にあたるすごい金額だ。この5年で5割も増えている。アメリカだって同じ時期に1割弱しか増えていないし、ドイツやフランスなんて小幅とはいえ減っているのに。これはグッド・ニュース?

どうしてこんなに増えているのだろうか。まず企業が輸出などで稼いだおカネを外国の株式や債券に回し、その稼ぎを海外に再投資しているからだ(10月22日付日本経済新聞)。企業や金融機関による海外証券投資残高は、この5年で2倍に膨らんでいる。

また生命保険会社や年金運用法人(GPIF)なども、日銀が日本国債利回りをゼロに抑えているから、国債を日銀に売って海外債券購入に向かう。

個人だって、そうだ。個人の海外投資信託も100兆円を超え、これも5年でほぼ倍増。また家計の外貨預金は6月末で6兆円を超えた。前年比で9%も増えている。とくに日銀が2016年2月にマイナス金利政策を導入してから増加傾向が定着したという(10月5日付日本経済新聞夕刊)。この背後にはネット銀行の活躍があるという。家計にとってリスクの高い外貨預金だがネット銀にとってはその手数料が大きな収益源となっているからだ(同上)。

これらの結果、アベノミクスの5年間で年40兆円ものペースで国内からの「資本流出」が起きている。

4.企業の内部留保400兆円超え

企業の利益から株主配当を払った残りが内部留保だが、これも5年間で4割、つまり100兆円あまりも増えた。しかし、設備投資は20年前とほぼ同水準だ。

大企業の空前の収益は円安によるところが大きい。5年前に1ドル=85円だった為替レートは1ドル=125円まで動いた。この間、企業は同じ1ドル輸出でも40円の収益増を得たのだ。しかし国内の投資や賃上げを抑えてこれらを海外投資に向けている。

これに対して下請けの中小企業はたいへんだ。日本が輸出するには原料などを輸入しないといけないが、下請け企業は海外から1ドル分を輸入するのに85円で仕入れることができたものが125円かかることになる。

そこでなんとか利益をあげたところで、それを大企業のように海外投資に向けることもなく、かといって国内に有望な投資先があるわけでもなく、しかたなく内部留保としてとどまっているのだ。

5.日経平均、21年ぶりの最高値連日更新

たしかに日本の株価は昨年末比で11%上昇している。しかし、世界的な株高に対しては出遅れいるのが実際だ。下の表にあるように、世界は低金利・低インフレのかなで景気が拡大し、多くの国の株式指標が相次いで過去最高値を更新している。

だから海外投資家たちは日本株はまだ上がると思って買っている。また自社株買いも活発だ。巨額の内部留保は投資に向けるより自社株を買ったほうが株価も上がるし利益も出るからだ。日本企業の自社株買いは昨年度で5.7兆円、今年度も4.9兆円と高水準を維持する見込みだ(10月12日付日本経済新聞)。

でも、それ以上に日本株を買っているのが日銀だ。日銀の上場投資投資信託(ETF)買い入れは年6兆円、ついに保有残高が20兆円を突破した。中央銀行が株を買うのは異例で、欧米に例はない(10月19日同上)。これが日本株を下支えしているのだ。

とはいえ、20兆円と言えば日銀の自己資本(約8兆円弱)の3倍近くだ。いつまで続くのだろう。続けられなくなれば、当然株価は大幅に下落し、日銀の損失も莫大なものになる。

日経平均上昇はなぜか内閣支持率を押し上げる。これが消費を刺激する資産効果も見られないのに。儲けているのは外国人投資家と大企業なのに。

6.「安倍政権でGDPが50兆円増えました!」

衆議院選挙の街頭演説で安倍総裁は、こう連呼した。メディアもこれになんら論評なく垂れ流していた。

少し考えてみよう。安倍政権発足当時の日本のGDPは500兆円足らずだった。それが50兆円も増えたのだとしたら年率で2%程度の経済成長率が必要だ。しかし実際の数値は、その半分程度だ。

GDPは、民間消費と政府消費、企業投資と公共投資、これに純輸出(貿易黒字)を合計したものだ。これまでみたように全体の60%近くを占める民間消費は増えていない。所得が増えないなかで貯蓄が増えているだけだ。企業投資も、増えていない。

どんな魔法で50兆円も増えたのだろうか。

じつは昨年7~9月から内閣府はGDPの算出方法を変更した。これまで「費用」と見なしていた企業の「研究開発費」を「投資」としてGDP算出に加えることにした。これでGDPは3%(約15兆円)増えることになる。

これ以外にも特許使用料1.4兆円、不動産仲介手数料が約1兆円が加算された。これらがその後の算出基準となっている。つまり、それまでGDP算出に入れていなかったものを加算することによって年間20兆円近くGDPが増えることになっただけの話だ。

この話には不愉快なおまけがある。安倍政権はそれまでの財政再建公約、すなわち2020年度の基礎的財政収支黒字化を反故にして、新たに基礎的財政収支赤字の「対GDP比縮小」を目標にすることにした。

すると分母のGDPは算出方法変更で増えるし、分子の基礎的財政収支赤字は日銀の国債金利ゼロ政策でなかなか増えないことになる。だから財政赤字が増えても財政再建に近づくことになるように見せかけるという代物だ。

驚きのカラクリだ。それを臆面もなく街頭演説で叫び続ける。メディアはそれを垂れ流す。野党分裂や、「排除」発言とか毎日ツッコミを入れるのだが、この問題には一切触れない。
 

こうして自公は3分の2以上の議席を獲得した。これはグッド・ニュース?それともバッド・ニュース?

質問を変えよう。「それでも」自公は小選挙区得票率48%(つまり過半数割れ)、比例代表得票率では33%しか取れなかった。経常収支は「黒字」だ。株価は最高値だ。GDPが50兆円「増えた」。それでも有権者は小選挙区の半分以上、比例代表の3分の2を野党に投票した。そして半分近くが棄権した。

これはグッド・ニュース?それともバッド・ニュース?

日誌資料

  1. 10/09

    ・神戸製鋼がデータ改ざん アルミ部材 航空・車200社に供給 10年前から組織的に
  2. 10/10

    ・経常黒字、8月で最高 前年同月比20.8%増の2.3兆円 <1> <2>
    第1次所得収支(海外からの配当や投資収益)は13%増の2.2兆円
  3. 10/11

    ・米・トルコ亀裂深まる ビザ発給相互に停止 中東の安全保障に影 リラなどトリプル安
    ・独、難民流入抑制に転換 年20万人上限 与党議席減受け
    ・トランプ政権 火力発電規制撤廃へ 化石燃料の開発促進 炭鉱労働者にアピール
    ・米機、朝鮮半島に再展開 北朝鮮けん制 日韓と共同訓練
    南シナ海に駆逐艦 「航行の自由」作戦 現政権4回目
    ・倒産件数9年ぶり増 上期0.1%、負債総額3倍超
    ・アリババ時価総額アマゾン上回る 2年3カ月ぶり 一時4700億ドル(約53兆円)
    ・国務長官発言報道でトランプ氏「バカというならIQテストで勝負だ」
    ・仮想通貨、米金融を二分 JPモルガン「詐欺だ」 ゴールドマンは好意的
  4. 10/12

    ・日経平均21年ぶり高値 2万881円 外国人、企業の収益力評価 自社買いも高水準
    ・スペイン「自治権停止も」 カタルーニャ独立問題 撤回迫り強硬姿勢 <3>
    ・FOMC(米連邦公開市場委員会)9月議事要旨公表 「年内利上げ」大半
    ・米軍、朝鮮半島に集結 来週、空母を展開
    ・韓国、人気旅行先首位に日本 「片思い」に経済界嘆き節
  5. 10/13

    ・米、ユネスコ脱退(来年末) 国際社会、驚きと批判
    パレスチナ自治区のヘブロン旧市街世界遺産に「反イスラエル的」と反発
    ・増税凍結で負担541万円増 消費税で民間試算 使途変更は270万円増 <4>
    ・サムスン営業益2.7倍 7~9月、1.4兆円 スマホ向け半導体好調
    ・中韓通貨交換協定を延長 2009年締結これまで2回更新
    ・G7(財務相・中央銀行総裁会議、ワシントン) 北朝鮮に最大限の圧力
  6. 10/14

    ・イラン核合意 トランプ氏「破棄も」 EUは批判 英独仏首脳「影響を懸念」
    ・中国、車専用電池(リチウムイオン)世界シェア6割 国が巨額投資支援 <5>
    2位日本は2割、3位韓国1割 EV世界販売台数に占める中国のシェアは乗用車で51%
    ・中国、北朝鮮からの輸入38%減(9月)
    ・NAFTA再交渉 米が車に米部材50%以上使う条項を提案
  7. 10/15

    ・G20(財務相・中央銀行総裁会議、ワシントン) 高揚感なき成長 <6> <7>
    すべての国でプラス成長は7年ぶり 低物価・低金利、政府債務急増にリスク
    日本、基礎的財政収支黒字化目標の公約撤回 財政の信認揺らぐ

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