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週間国際経済2020(30) No.241 10/10~10/17

今週のポイント解説(30) 10/10~10/17

感染予防対策と経済対策は車の両輪だとか言うけれど

1.検証されにくい合意

感染予防対策と「経済を回す」は車の両輪だと、政治家も評論家も呪文のように唱え、これに特に反論(いや、どちらかを切り捨てろ、とか)言えないものだから、なにげに合意が形成される。ありがちなことだが、これは危うい合意だ。ひとたび形成されると、なかなか検証されにくくなる。

みんな違和感を持っている。感染予防対策とは移動制限であり、経済を回すとは移動促進なのだから。このふたつが車の両輪よろしく、同じ速度で回転してくれるなんて至難の業だ。ついつい片方の感染予防対策は従来通りで、もう片方の経済対策は加速する。これが車の両輪ならば、その車は横転するだろう。

その横転を食い止めるためには急ブレーキしかない。まさに「両輪だとか言うけれど」だ。じつはそれぞれ独立した車輪なのだから、横転させないためにはまず、感染予防対策を強化して徐々に「経済を回す」速度を上げていくしかない。

そんなことはみんなわかってはいるのだけど、反論しにくい合意がいったん形成されるとなかなか検証されにくくなる。なんとも危うい合意となる。

2.経済を回したら感染が拡大した

だから、これは当たり前の結果なのだ。10月20日付日本経済新聞によれば、直近で新規感染者数が過去最多を更新した国は49ヵ国に達し、EUとイギリスのそれは今春の第1波の3倍を超えた。ヨーロッパでは夏前にかけて移動制限を相次ぎ緩和し、公共交通機関への人出はコロナ禍前の8~9割に戻っていたという。

アメリがでも1日あたりの感染者数はピーク時に近づき6万人を超えている。新規感染者数が増加しているのは、トランプさん支持の共和党知事の州で顕著だ。それでもコロナ軽視の英ジョンソン政権と米トランプ政権は、クリスマス休暇シーズンに米英渡航制限を緩和する方向で協議しているという。

政治家も投資家も、新型コロナ治療薬とワクチンの開発に期待していた。トランプさんは11月には完成すると断言していた。ところがだ、日本では特例的に承認されたレムデシビル、WHOは10月15日「ほとんどあるいは全く効果がない」という調査結果を発表した。ワクチンに関しては、期待されていたファイザーやモデルナが相次いでスケジュールの遅れを発表した(10月18日付同上)。安全証明になお課題が多いという。それもそうだろう、ワクチンの開発には早くても3年から5年はかかると聞いていた。

振り出しに戻ったとまでは言わないけれど、感染予防対策の車輪回転数は上がっていない。でも経済対策のアクセルは踏みこまれた。フランスでは夜間外出禁止が再開され、ロンドンでは10月17日以降レストランを含む屋外で同居人以外と会うことが禁じられ、チェコとアイルランドでは22日から全土のロックダウンが再導入される。アメリカは、感染者数が800万人を超えたが(死者21万8000人)、大統領選挙が終わるまで、トランプさんは決してブレーキを踏まないだろう。

3.世界経済、進む優勝劣敗

10月14日付日本経済新聞の見出しだ。その「優勝劣敗」を分けるのは感染抑制と財政の健全性だという指摘だ。鮮明なのが中国とアメリカ。新規感染者数がほぼゼロまで減った中国の経済成長率は4~6月期に3.2%、7~9月期予測は5%強。2021年のIMF予測は8.2%というV字回復だ。一方アメリカは、4~6月期は年率換算で30%超のマイナス、2021年もマイナス3.1%と予測されている。

日誌10/14のグラフを見て欲しい。世界銀行の資料から作成されたものだが、中国とアメリカのGDP規模が肉薄しているのがわかる。こうした優劣は、例えば累計感染者数がわずか約1100人のベトナムは1~9月期に2%成長(前年同期比)、対して感染抑制より経済を優先したブラジルは5.8%という大幅なマイナス成長が予測されている。

ここで示されているのは、感染抑制と経済刺激は車の両輪ではなく、感染抑制の車輪が経済回復の車輪を回転させているという関係だ。

そう単純に比較できる話ではないが、それにしても中国の武漢ロックダウンの徹底ぶりには驚かされたし、トランプさんのコロナ・リスク軽視にも驚かされる。大統領選挙を控えて、トランプさんは極端に感染抑制より経済再開を優先させた。しかもマスクもしない。

しかしこれがトランプさんの選挙戦を利したとは思えない。日誌10/17のグラフは興味深い。アメリカの大統領選挙についての有権者世論調査では、「経済を重視する」という比率がわずか9%にとどまっている。最大の関心事は「リーダーシップの欠如」(25%)と「コロナウイルス」(25%)で、「人権」(13%)も「経済」を上回っている。

経済の打撃を、政府の失業保険給付金や現金給付で緩和したからという指摘もあるが、次期政権に期待することは、まずは感染抑制に対するリーダーシップだというのが世論だ。みんな経済の車輪はその後に回転すると気がついている。

4.なぜ日本の経済回復の見通しは鈍いのか

さきほどの日誌10/17のグラフに戻る。どうしても気になるのが日本の曲線がヘロヘロだということだ。おかしい。感染抑制が優勝劣敗を決めるというならば、日本の感染者数は相対的に少ないと思うのだが。下の表を見ても、日本は感染者数が爆発的に増大したアメリカやユーロ圏より2021年の経済見通しが鈍い。

日本の回復の遅れについて、IMFの首席エコノミストは10月13日の記者会見で「日本は中期的な潜在成長率が高齢化などで0.5%と低い。外需依存が大きいのも要因だ」と述べている(10月14日付同上)。

潜在成長率とは、「資本」、「労働力」、「生産性」の3つの生産要素を効率的に利用した場合のそれぞれの伸び率の合計値だ。労働力とは労働人口と労働時間を掛け合わせたもので、日本の生産年齢人口は毎年50万人ほど減少しているのだから伸びようがない。生産性もIT化の遅れや高齢化によって先進国では最下位レベルだ。またインバウンド消費や輸出といった海外の需要に依存している。

つまり回復力が乏しいということだ。まだアメリカにはIT分野など、むしろコロナ禍で急伸する牽引役が存在している。日本はこれといった成長戦略が、少なくとも国際的には認知されていないのだ。しかも、「優勝劣敗」を分けるのは感染抑制と財政の健全性だという指摘を見たが、日本の財政赤字の対GDP比は突出して世界最悪なのだから。

長く、成長戦略と財政再建を先延ばしにしてきたツケが、コロナ禍からの回復力に影を落としているということなのだろう。

5.ハンマー&ダンス

もちろんコロナ感染の拡大と収束には第1波、第2波と繰り返されることは当初から指摘されていた。そこで注目されたのが3月にアメリカのジャーナリストTomas Pueyoさんが発表した The Hammer and the Dance という概念だ。これは瞬く間に世界40以上の言語に翻訳され、この発想に基づく学術論文も多く発表された。日本でも緊急事態宣言延長の延長が表明された(5月4日)あと、西村経済再生大臣が会見で、この「ハンマー&ダンス」が今後日本の基本方針だと表明した。

その内容について、京都大学の山中伸弥先生のブログから習うと、まず文字通り「ハンマー」つまり感染者数を徹底的に減らすことが必要だ。これで時間を稼ぎ、検査と隔離、医療体制の整備、治療薬やワクチン開発などで備える。そして「ダンス」、ウイルスとの共存だ。

ハンマーからダンスへの移行の目安は、実効再生産数R(一人の感染者が何人に感染させているか)で、このRを0.5までに減らすことが必要だと言われていた。そしてダンスの局面では、Rが1を超えない範囲で経済活動を再開する。いっときメディアでもさんざん紹介され、やれ「大阪モデル」だとか「東京アラート」だとかでもこの数値が問われていた。

ところがだ、いつの間にかまったく話題にも上らなくなって「Go to キャンペーン」が始動してしまった。Rの数値が0.5になったからなのか、今Rの数値はどうなのか。それは、日本政府の基本方針ではなかったのか。感染抑制の備えはどうなのか。Go toキャンペーンで経済は回っているのか。

日本経済の回復力は乏しいと見られている。それだけに早期の感染抑制が求められる。東京オリンピック開催リスクも最小限に抑えなくてはならない。「車の両輪」合意は検証されなくてはならない。長く国会は休会したままだ。さて、首相が交代した、検証のチャンスだ。新しい内閣はどのように検証し、どのような対策を打ち出すのか。期待は外れた。世間は「ハンコ」と「学術会議」で盛り上がっている。それでも新しい内閣の支持率は驚くほど高い。

ぼくたちは、このダンスを踊れない。

日誌資料

  1. 10/10

    ・「リツイート」一時制限 ツイッター、大統領選の期間中 偽情報の拡散に対策
    ・2回目討論会中止 オンライン形式 トランプ氏、反対
  2. 10/11

    ・ファーウェイ5G基地局、米製品3割 中国製は1割未満(日経調査)
    世界首位陥落の恐れ 広がる排除、生産停止も
    ・フェイスブックに暗号化見直し要求へ 日米英など 犯罪捜査の支障を懸念
  3. 10/12

    ・米英、渡航制限の緩和協議 クリスマスにも 旅行需要回復促す
    ・インド、感染700万人超す 米に続き2ヵ国目 拡大ペースは鈍化
  4. 10/13

    ・米大統領選、郵便投票急増 50%超えも 集計遅れ必至 激戦州、勝敗に影響
    ・トランプ氏、集会を再開(12日フロリダ) 感染後初、回復を強調
    ・OECD(経済協力開発機構)最低税率設定やデジタル課税で「税収8.4兆円増」
  5. 10/14

    ・世界経済、進む優勝劣敗 感染抑制・財政余力で差 IMF予測 <1>
    中国、来年8%成長も 日欧など回復鈍く
    ・中国の対米黒字最高 7-9月10.2兆円 輸入伸び悩む <2>
    対米輸出18%増(マスク、ノートパソコンなど) 対米輸入は10%増
  6. 10/15

    ・EUの対米報復関税をWTOが承認 航空機補助金巡り年40億ドル分
    米、欧州エアバス補助金に報復→欧州、米のボーイング補助金に報復
    ・デジタル人民元市中実験 中国、資金の流れ「監視」 日米欧は警戒
    深圳市で5万人、1人約3100円 使い方はスマホ決済と同じ
    ・政府債務、世界GDP匹敵 IMF今年予測 コロナで過去最大
    ・パリ夜間外出再び禁止 独はマスク義務拡大 コロナ感染急増 <3>
  7. 10/16

    ・米大統領選、両候補が対話集会(15日) トランプ氏、コロナ対応「問題ない」
  8. 10/17

    ・英・EU迫る時間切れ 英首相「FTAなし、準備を」 <4>
    ・米大統領選、関心「経済重視」失業率最悪でも最低水準の9% コロナは25% <5>
    ・レムデシビルは「ほぼ効果なし」 WHO、コロナ死亡巡り
    ・米財政赤字、最悪の330兆円 20会計年度 コロナ対策で前年度の3倍に
    ・米コロナ感染、800万人超 拡大ペース、ピークに迫る
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